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2007年11月05日(月) 15時31分

「パートの独断」と言うけれど 吉兆の責任免れず朝日新聞

 船場(せんば)吉兆(大阪市)による消費・賞味期限の偽装問題で、新たに総菜・菓子の偽装が判明したが、同社側は再び、シールを張り替えたのはパート従業員だと主張し、会社ぐるみの関与を否定した。仮にそうでも、パートやアルバイトなど非正規社員に仕事を任せ、チェックを怠った会社の責任は免れられるのか。

 問題の総菜・菓子が売られた岩田屋(福岡市中央区)地下の「吉兆天神フードパーク」は当時、40歳代のパート女性のリーダーと、アルバイト5人で切り盛りしていた。

 リーダーの直属の上司は船場吉兆の湯木尚治取締役。新たな偽装が発覚した夜、「リーダーにすべてを任せてしまった自分に管理・監督責任がある」と言いつつ「総菜も、リーダーが在庫を売り切ってしまおうと勝手にやった」と繰り返した。

 リーダーは勤続3年半のベテラン。「食品の売り場経験も豊富。商品の発注もすべて任せていた。バイトは20代が多く、反抗できる雰囲気ではなかった」(湯木氏)。業務日誌を点検すれば変だと気づくはずだが、本社がチェックしていたのは売り上げだけ。リーダーは「失敗したと思われたくなかった」と話しているという。

 しかし、「食べ物を扱うのに会社側が何も知らないことがあるだろうか」と、福岡市内のスーパーの食品部門で働くパート女性(48)は首をかしげる。「職場では正社員以上に働くパートもいるけれど、賃金が安いうえ、何かミスがあると正社員から責任を押しつけられる傾向がある」

 福岡市食品安全推進課の藤本正典課長は「食品を販売させる以上、会社は法令順守の社内研修の徹底など、食品の安全に対する意識を高めるよう努めてほしい」と話す。

 岩田屋の食品売り場は従業員の雇用をテナントに委ねる委託販売が「7割前後」(広報室)。市内の別の百貨店も同じく8割程度はテナントで、従業員雇用にはほとんど関与しないという。

 百貨店に限らず、流通業界などで非正規社員が主要業務を担うことは珍しくない。正規でも非正規でも、社員が仕事で外部に与えた損害の法的責任は、企業が負うことに変わりはない。

 国内最大の労働団体・連合の高木剛会長は「管理責任をあいまいにしたまま、パートに責任転嫁するのは許されない」と話す。「非正規の人たちをコアの労働者として使うなら、仕事ぶりに応じた処遇とコンプライアンス(法令順守)体制の整備が不可欠だ」

 コンプライアンスに詳しい早稲田大学大学院法務研究科教授の浜辺陽一郎弁護士も、会社が売り上げや在庫を把握せず、報告も徹底させていなかった点が問題だと指摘する。「食品の消費期限は自主的な規律に委ねざるを得ない面がある。内部管理の徹底は顧客だけでなく会社のためでもあることを意識すべきだ」

http://www.asahi.com/national/update/1105/SEB200711050008.html