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2007年11月04日(日) 15時52分

「疑問感じながら慣習で」 営業所員、赤福偽装に罪悪感朝日新聞

 「おかしいと思いながら、慣習としてやっていた」。和菓子メーカー赤福(三重県伊勢市)の偽装問題で、名古屋市から食品衛生法違反にあたるとして営業禁止処分を受けた同社名古屋営業所(名古屋市中川区)の従業員は、朝日新聞の取材にこう語った。組織の一員としての義務感と罪悪感に苦しみながら、消費者を欺き続けた。しかし、次々と明らかになる本社主導の偽装の悪質さは現場の想像をはるかに超えていた。

 同営業所は赤福にとって伊勢、大阪に並ぶ重要な市場である名古屋方面向けの出荷拠点として、04年に完成した。名古屋駅周辺など主に愛知県内に、20人ほどの社員が7ルートで赤福餅を送り出す。3個入りパックの商品も作った。

 裏の役割があった。いったん完成して製造日を表示した未出荷の商品が持ち込まれると、35平方メートルほどの包装室で包装し直し、表示上の製造日を次の出荷日にずらす「まき直し」をした。

 市は食品衛生法に基づく営業禁止の直接の理由として、(1)本社からの6000箱を冷凍せずに「まき直し」をした(2)3個パックの消費期限を本当の日付から1日後にずらす「先付け」をした、という2点を挙げた。

 市や関係者によると、同営業所での偽装の段取りはこうだ。

 本社から夕方に連絡を受け、東名阪自動車道などの売店を結ぶ「名阪ルート」の配送車から店頭に出されなかった商品を受け入れ、すぐに零下40度の冷凍室へ。翌朝7時ごろの本社の指示で「まき直し」。2〜4人が約80度のスチームが出る解凍機で解凍後、包装紙がうまくはがれるように大きな扇風機で乾かす。

 包装紙に解凍当日を製造日とした印を機械で押す。年、月、日それぞれの数字の後に「・」(ピリオド)。「まき直し」の行程に再び回ることを防ぐ目印だ。製造者欄の「N」は名古屋で「まき直し」をしたことを示す。だがそれらの意味を知る所員はいなかった。

 各地の売れ行きを把握し、商品の移動を細かく判断する本社側の指示と、指示に従い冷解凍や再包装、日付の表示、出荷や再出荷をする現場の作業が相まって偽装は完結する。

 名古屋での偽装は9月まで続いた。明白な偽りである「先付け」について従業員は「おかしいと思いながら、慣習としてやっていた。本社の指示があり、しないといけなかった」とうなだれた。

 10月中旬以降、次々に赤福の不正が明るみに出た。売れ残った商品を、冷凍せずに「まき直し」を施して再出荷したり、消費期限の切れた商品を餅とあんに分けて再び赤福餅の材料にしたり。

 市によると、同営業所にも売れ残りが戻されていた。そうとは知らない営業所は未出荷品と同様に「まき直し」をし、再出荷してしまっていた。

 「店頭に出た商品を再冷凍しないのは食品会社として当然」と信じてきた従業員は、常軌を逸した不正に加担していたと知り、言葉を失った。

 10月末、浜田益嗣(ますたね)前会長が引責辞任した。

 従業員は「辞任は妥当。責任のなすり合いをしても仕方がない。顧客の信頼を取り戻す努力を続けるしかない」と言葉少なに語った。

 名古屋市は本社と現場一体で偽装を続けた赤福の商品管理体制全体の改善を見極める必要があるとみて、本社を管轄する三重県と連携を強める。

http://www.asahi.com/national/update/1104/NGY200711040001.html