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2007年11月01日(木) 00時00分

ウィキペディア創設者が講演、グーグルに対抗心読売新聞


講演で熱弁を振るうウェールズ氏

 インターネット上のフリー百科事典「ウィキペディア」の創設者、ジミー・ウェールズ氏が9月、東京で開催されたウェブ関連の国際会議「The New Context Conference」で講演。その中で、今年始めた検索エンジン開発プロジェクトの概要や進ちょく状況などを明らかにした。

「ウィキア・サーチ」を開発中

 ウェールズ氏は現在、ウィキペディア財団とは全く独立した営利企業「ウィキア」の開発チームを指揮しており、目下「ウィキア・サーチ」と呼ばれる検索エンジンを開発中だ。これが、インターネット業界内でグーグルのライバルとして大きな期待を集めている。その理由は検索エンジンの世界に、いわゆる「オープンソース」的な考え方を持ち込んだからだ。この点についてウェールズ氏は、講演で次のように語った。

「問題なのは、(グーグルのような)検索エンジンの内部で一体何が起きているのか全くわからないこと、つまりブラックボックス化していることだ。例えばランキング・アルゴリズム(算出法)が秘密なので、ユーザーは検索結果の表示順位がなぜそうなったのか理解できない。こうした現状に対し、多くの人が不満を覚えている。そこで我々が新たに開発する検索エンジンでは、その構成要素をすべてオープンソースにして、ランキング・アルゴリズムも公開することにした。こうすれば人々が検索結果を信用してくれるはずだ」

 オープンソースとは、ソフトウエアのプログラム(ソースコード)を一般に公開することで、たくさんのボランティアプログラマーが善意に基づいて開発に参加できるという概念や、そうした運動を指す。代表的なものにOS「ウィンドウズ」への対抗馬として知られる「リナックス」などがあり、オープンソースは広がりつつある。

 その長所の1つは、開発費が安く抑えられることだ。これについて同氏は、「(2001年に)ウィキペディアを立ち上げるために、もしも5万ドルが必要だったとしたら、とてもできなかったと思う。幸いにも当時既に、フリーのオープン・ソフトウエア・プラットフォームがネット上に出回っていたので、それを使って、ごくわずかな資金でウィキペディアをスタートできた。同じことが、今回もいえる。確かに検索エンジンでは、かなりのハードウエアや通信帯域が必要とされるので、さすがに数百ドルで開発するのは無理だが、それでもかなり安価に検索エンジンを開発できることは間違いない」としている。

人間が検索結果の判断に参加できるツール

 オープンソース化によってアルゴリズムの透明性を高め、開発コストを抑えるとともに、ウィキペディアに見られるコラボレーション(共同作業)を検索の世界に導入することも強調した。これまでの機械的な検索エンジンの問題点であるスパム(大量の無意味な検索結果)を指摘したうえで、それに代わる仕組みについて同氏は「誰しもが、個人あるいは組織として、何らかの形で検索結果に貢献できるようにする。つまり機械(プログラム)ではなく、人間が検索結果の判断に参加できるようなソーシャルツールを開発したい」と語っている。

 ウィキア・サーチは現在、世界的なオープンソースプログラマーのジェレミー・ミラー氏を中心とするチームによって開発されている。同氏は、電子メールの伝送プロトコルSMTPの発明者として知られる。この開発チームに加え、search.wikia.comというウェブサイト上でコミュニティーを形成し、メーリングリストを回すなどして、よい検索エンジンを作るためのアイデアを一般から募集しているという。

 とはいえ、当初の検索性能はあまりよくないと予想される。ウェールズ氏も「最初からよいものを出すのは難しい。まずは(ベータ版を)コミュニティーに開放して、(それをよい製品にするまでには)1〜2年の努力が必要だろう」という。

 このように何かと話題の多いウィキア・サーチのベータ版は、今年12月ごろに公開される予定だ。(ジャーナリスト・小林雅一/2007年10月24日発売「YOMIURI PC」2007年12月号から)

http://www.yomiuri.co.jp/net/frompc/20071031nt0b.htm