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2007年10月30日(火) 00時00分

癒着「告白」 膨らむ疑惑…守屋氏 証人喚問読売新聞

ゴルフ11年で200回以上 北海道・九州でもプレー

 29日に衆院テロ防止特別委員会で行われた守屋武昌・前防衛次官の証人喚問では、4年以上にわたり次官として防衛省に君臨し、“影の防衛相”とまで呼ばれた守屋氏が、公私のけじめもなく出入り業者の接待漬けとなっていた実態が浮き彫りとなった。守屋氏は業者側への便宜供与などは否定したが、新たな疑問点も浮上。守屋氏をめぐる疑惑が収束する気配はない。(政治部 川崎英輝、小川聡)

■接待漬け

 「この委員会で私の接待疑惑に対して誠実にお答えすることで、委員会の審議が円滑に進むことを願うばかりだ」

 証人喚問の冒頭、神妙な表情でこう語った守屋氏の口からは、山田洋行の宮崎元伸・元専務との「癒着」の実態が次々と明らかにされた。「(宮崎氏とのゴルフは)11年くらいやっているので十分200回を超えているだろう」「賭けマージャンをしたり、韓国クラブにも行った」「守屋氏夫妻の偽名は『佐浦丈政』『松本明子』」——。

 ゴルフのプレー料金として、1回1万円しか払わなかったことについては、「大変能天気と言われれば能天気だが、ゴルフ場の正規料金を知らなかった」と述べた。宮崎氏と北海道や九州にもゴルフに出かけていたことも認めた上で、「資金は宮崎さんの方でお支払いになったと記憶している」と語った。

 あまりの実態に、自民党の田中和徳氏は「小出しにせず、この際、全部証人として話した方がいい。ほかに何があるのか」と問いただした。

 すると、守屋氏は「あの……ほかにと言われると、ゴルフを始める時に、私と妻のゴルフセットをいただいた。今から4、5年前にも(別の800ドル相当の)ゴルフセットをいただいた」と新たな事実を“告白”。さらに、宮崎氏から日常的に海外土産のネクタイやバッグなどを受け取っていたことも認め、「お歳暮やお中元を相互にやり取りしていた関係だった」と明かした。

■自衛隊員倫理規程

 自衛隊員倫理法や同倫理規程では、業者とのゴルフプレーを禁じている。5000円を超える贈答品を受け取った場合、報告書の提出を義務付けている。

 守屋氏は防衛庁官房長時代に、倫理規程を取りまとめた。次官在任中は倫理監督官として指導する立場にあった。それにもかかわらず、守屋氏は自らに関する報告書は「一度も提出していなかった」と述べた。防衛省では幹部が休日などの連絡先を届け出る慣例があるが、守屋氏は自らのゴルフ場通いはひた隠しにしていたという。なぜ、「接待」と認識しながら、宮崎氏との関係を断ち切ることができなかったのか——。

 守屋氏は、「ポストが上がっていくにつれ、ストレスがたまり、週末に何とか解消したいとの思いがあった。仲間や部下を連れて行くと気をつかうので、長年の友達関係だった宮崎さんを頼ってしまった。人間として甘かった」と釈明した。

会合同席元防衛長官の名前 「迷惑かける」公表拒む ■新たな疑惑

証人喚問を終えた守屋前防衛次官(中央)(29日午後)=竹田津敦史撮影

 今回の証人喚問で、新たな疑惑も浮上した。

 一つは守屋、宮崎両氏と政治家との関係をめぐるものだ。守屋氏は次官在任中、一人の政治家との会合、複数の政治家との会合がそれぞれ1回行われたことを明らかにした上で、「防衛長官経験者もいたと思う」と述べたが、「迷惑をかける」と氏名の公表は拒んだ。野党からは「巨大な防衛利権に政治家が関与している実態を明らかにすべきだ」との声が上がった。

 また、民主党の川内博史氏は山田洋行が納入した装備品の価格水増し問題を追及。さらに、次期輸送機(CX)のエンジンを選定する省内会議で議長を務めた守屋氏が、昨年12月に宮崎氏も同席してエンジン製造会社幹部と会談したことについても、守屋氏が何らかの便宜を図ったのではないかなどと指摘した。

 守屋氏はいずれも関与を否定したが、当初15分間としていた米ゼネラル・エレクトリック(GE)社幹部との会談時間を川内氏が「防衛省の資料では50分だ」とただすと「記憶がない」と言いかえるなど不自然な点もあり、防衛省は増田防衛次官が証人喚問後の記者会見で、再調査に乗り出す考えを示すなど対応に追われた。

宮崎氏 米国人脈の立役者

 29日の証人喚問で、守屋氏は20年以上前に宮崎氏の紹介で米国務省や国防総省などの担当者らと人脈を作り、「米国がどんなことを考えているのかを知る、貴重な情報源を得た」と証言した。

 守屋氏が宮崎氏と初めて出会ったのは1984年、まだ防衛庁防衛課(現・防衛政策課)の部員(課長補佐)だったころだ。防衛課は、日米安保体制を基盤とした日本の防衛政策を策定する、防衛庁の中枢部署だ。だが、それまでの守屋氏は国内の基地問題対処などに明け暮れ、対米関係を含む国際情勢にはまったく疎かった。守屋氏は、宮崎氏と出会った最大のメリットについて「僕に米国人脈を開いてくれた」と周辺に語る。

 中でも、防衛官僚としてのキャリアに最も影響を与えたのは、知日派のリチャード・アーミテージ元国務副長官との出会いだった。アーミテージ氏は、守屋氏が幹部に上り詰めるのと軌を同じくして、米政府内で影響力を増し、ブッシュ政権前期では、対日政策を取り仕切った。

 守屋氏は、宮崎氏が端緒を開いた人脈を足がかりに日米同盟強化や沖縄問題などで成果を上げ、次官に就任したといえる。

 しかし、4年余という異例の長期在任は批判を受け、今年8月に退任後、不祥事が相次いで発覚してからは、民間人の守屋氏を補佐する者はおらず、証人喚問のための準備は家族が行った。答弁書は娘がパソコンで打つ状況だったという。

自衛隊員倫理規程  自衛隊員倫理法に基づき、隊員の倫理行動基準を定めた規程。2000年4月に施行された。隊員が業者など利害関係者との旅行やゴルフ、飲食接待に参加することを禁じており、違反者は、防衛省内の倫理審査会で調査の上、懲戒処分対象となる。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe8000/fe_071030_01.htm