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2007年06月28日(木) 01時46分

6月28日付 編集手帳読売新聞

 速くて正確なのはどちらか、そろばんと電気式計算機の対抗試合が東京・日比谷  で催されたのは1946年(昭和21年)の11月である。米軍の機関紙「星条旗」が主催した◆加減乗除に混合算の計5種目を競い、4種目を制したそろばんに軍配が上がっている。敗戦の翌年でもあり、「戦勝国を打ち負かした」「日本は死なず」と喜んだ人も多かったと伝えられる◆時は移り、電卓全盛の世を迎えたが、慣れるとこちらが速いからと、職場などでいまでもそろばんを愛用している方は多かろう。上級者になると、珠(たま)をはじく指の感覚で計算の間違いに気づくという◆学力向上の手段として教育の現場でも見直されつつあり、珠算能力検定の受験者数は昨年度、26年ぶりに増加した。対抗試合の熱気とまではいかずとも、伝統の計算術に復権の兆しが見えるのはうれしい◆牛肉を偽装した食肉加工会社、虚偽申請をした介護サービス会社、契約時の説明を偽った英会話学校…と、経営の誤算に気づく「指の感覚」を忘れ、目先の金勘定に電卓をたたきつづけた企業が世を騒がせている◆利益の珠をはじく指が「あなた、間違ってますよ」と告げてくれるかどうか、その声を聞き取れるかどうかに、要は尽きよう。まだじわりとはいえ、せっかくの珠算熱である。経営者も指と耳を磨くに限る。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070627ig15.htm