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2007年06月26日(火) 01時51分

6月26日付 編集手帳読売新聞

 「家」という字のうかんむりは住居を、下の「豕」は豚を意味する。神に供える生贄(いけにえ)が豚であるという。家族の無事と平穏な暮らしを祈る心がこもった字だろう◆漢字とは面白いもので、うかんむりの下に置く動物が牛だと「牢(ろう)」になってしまう。家と牢では天と地のひらきがある。豚と牛はともに食卓には縁の深い家畜だが、ごっちゃにするものではないらしい◆全国に販路をもち、手広く営業していた会社が一気に行き詰まる。これも豚と牛をごっちゃにした末の“天と地”だろう。牛肉ミンチに豚肉を混ぜていた北海道苫小牧市の食肉製造加工会社「ミートホープ」が警察の捜索を受けた◆社長の指示で牛肉偽装工作に使われたのは豚肉にとどまらない。豚の心臓や舌、羊のクズ肉、パン、鳥インフルエンザの流行で価格が暴落したカモ肉…と、安くさえ上がれば見境がなかったようである◆会社は従業員に全員解雇の方針を伝えた。消費者の家庭に食と健康の不安を振りまき、従業員の家庭を生活の不安に沈める。「家」という字の成り立ちを忘れ、金儲(もう)けに目がくらんだ経営者の罪は深い◆「豕」を用いた熟語は「豕心(ししん)」(欲張り)や「豕突(しとつ)」(暴走)など、困った経営者を連想させるものばかりで、いい言葉があまりない。うかんむりの下に置くに限る。牛と間違えぬように。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070625ig15.htm