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2007年06月20日(水) 01時28分

エレベーター こんなずさん点検では不安だ(6月20日付・読売社説)読売新聞

 これではエレベーターに対する不安感が募るばかりだ。

 過去1年間に、計42基のエレベーターでワイヤロープの破断事故が起きていた。

 保守管理大手の5社が担当する全国の約50万9000基について、国土交通省が日本エレベータ協会を通じて調査した結果である。

 1万基に1基弱の割合だが、命綱ともいえるロープの点検漏れである。建築基準法で義務付けられている定期検査制度を早急に見直すべきだ。

 エレベーターは数本のワイヤロープでつるされている。さらに1本のロープは鉄線をより合わせた数本の束で構成されている。この束の一部がそっくり破断した状態で見逃されていた。

 非常止め装置が義務化されており、仮にすべてのロープが切れても最下階までは落下しないという。しかし、どんな不測の事態が起きないとも限らない。

 42基のうち15基は、時間の経過に伴う経年劣化が原因だった。国交省は「鉄線の何本かが切れるのは、想定の範囲内だが、鉄線をより合わせた束自体が破断することは、通常ではあり得ない。ずさんな検査・点検で劣化が見過ごされた可能性がある」としている。

 東京・六本木ヒルズのエレベーター機械室で4月に起きた火災も、鉄線の束1本が破断し、それが別の部品と接触して火花が飛び、粉じんに引火したのが原因だった。フロアに煙が充満して、850人が避難する騒ぎになった。

 事故機のロープには、赤さびや油がこびりつき、縄目も見えない状態になっていた。定期検査の際もロープの太さを調べただけで済ましていたという。

 その後、破断事故が各地で相次いで明るみに出ていた。一部の保守管理会社の問題ではない。国交省の調査も、こうした事態を深刻に受け止めたためだ。

 東京・港区の高層住宅のエレベーターで昨年6月、男子高校生が死亡した事故は、ドアが開いた状態のまま突然上昇し始めたために起きた。警視庁が業務上過失致死容疑で捜査しているが、やはり定期検査の不備が指摘されている。

 保守管理会社2社の社員など計67人が実務経験を偽ってエレベーターの法定検査の資格を得ていた問題も発覚した。国交省は「会社ぐるみの不正行為」と断じたが、法人に対する罰則や行政処分がないのも問題である。

 エレベーターのドアが開かず、閉じこめられるトラブルも頻発している。乗るのもこわごわ、というのでは困ったものだ。業界としても、安全性の向上に取り組むべきである。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070619ig91.htm