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2007年06月17日(日) 00時00分

NOVA・グッドウィル、膨張への執着に落とし穴(6月17日)日経新聞

 人材派遣・介護の大手のグッドウィル・グループと語学教室最大手のNOVA。バブル崩壊後、新たな産業の担い手として急浮上してきた2社が今、軌を一にするように業績不振と不祥事のダブルパンチにあえいでいる。製造業や金融など日本の主要産業が軒並み経営不振に陥る中、投資マネーを引き付け、成長を重ねた両社だが、オーナー経営者の膨張への執着が社内に不正の温床を生む格好にもなった。

 1984年に防衛大を卒業後、日商岩井(現双日)を経て起業への道を歩んだグッドウィル会長兼最高経営責任者の折口雅博氏(46)。高校卒業後にパリに留学、NOVA社長の猿橋(さはし)望氏(55)は5年間の欧州滞在を経て81年に前身のノヴァ企画を設立した。年も経歴も異なる2人だが共通項も多い。その一つが巧みなエンターテインメント性だ。

■映画並み料金で

 「駅前留学」と銘打った駅前の教室展開やテレビ会議システムを使って自宅で学ぶ「お茶の間留学」など、NOVAの猿橋社長はわかりやすいキャッチフレーズでお堅い語学教室のイメージを破ってきた。業界で破格の安価なレッスン料も「映画料金並みならば生徒も集まる」という猿橋社長の発案で始まった。2002年には「NOVAうさぎ」のテレビCMでその名を一気に世に広める。
 日商岩井時代に一世を風靡(ふうび)したディスコ「ジュリアナ東京」を創業した折口氏も負けてはいない。グッドウィルの社員集会ではスポットライトを浴びて登場。「その話し方や会場の雰囲気は『教祖』と『信者』のようだった」と介護子会社コムスンの元幹部は語る。

■「守りは負けの始まり」

 もう一つの共通点が成長への強い執着だ。

 「積極果敢に攻めよ、守りは負けの始まりなり」「常にチャレンジせよ」。グッドウィルはこんな言葉を社是に掲げる。折口会長は成果を上げた社員には給与と地位で報い、時には自身の豪華な別荘に招待して慰労するなどして絶えざる成長を求めた。そのかたわらで同会長と相いれない社員は次々と会社を去っていったという。

 NOVAの社是の言葉もグッドウィルと酷似する。「前進を忘れて現状維持の発想になったとき企業は終わる」「絶対ポジティブ」——。

 そんな両社を時代が後押しした。90年代から2000年代前半にかけ製造業や金融業が軒並み不振に陥る中、新市場を開いた両社には資金も人も集まりやすかった。

 93年に教室を全国100カ所に広げたNOVAは96年に株式を店頭公開、05年には全国拠点数を900に拡大した。グッドウィルも99年に株式公開してコムスンを子会社化。00年の介護保険制度開始時には訪問介護拠点を全国1200に広げ、ニチイ学館と並ぶ同分野の大手に躍り出た。

■疲弊するヘルパー

 だが「攻め」一辺倒の経営は成長の陰りとともにほころんだ。05年3月期をピークに売上高が減少に転じたNOVAは前払いでの長期契約を求める強引な営業が目立つようになり、受講料の返還を巡るトラブルも増加していった。

 グッドウィル傘下のコムスンでも景気回復とともに人材集めが困難になり、現場のきしみが目立つようになる。コムスンでパートのヘルパーとして働いていた女性は「少ない人数で多くの利用者を抱え、夜間の訪問介護はもうろうとした状態で利用者宅へ急行。自動車事故が絶えなかった」と証言する。

 グッドウィルは厚生労働省による処分で介護事業の全面売却を余儀なくされた。一方のNOVAの猿橋社長は「900の教室数は維持する。事業の縮小はするつもりはない」と強気を見せるが、経済産業省の処分前にすでに100円を割り込んでいた株価は先週末にかけての3営業日で約10%下落した。自力での立て直しを疑問視する見方も強まっている。



http://www.nikkei.co.jp/kansai/news/40541.html