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2007年06月15日(金) 06時10分

学力調査の中3記述式、採点難問 ×が○に、作業も中断朝日新聞

 小学6年と中学3年の約233万人が参加した全国学力調査の採点で、中3の記述式問題で正誤の基準が途中で変わったり、作業現場の責任者の判断が食い違うなど、混乱が生じていることがわかった。人材派遣会社から派遣された複数の採点スタッフが明らかにした。スタッフは「採点が肝心なのに、あまりにいい加減だ」と口をそろえている。

 採点業務は学校の教師に負担をかけないよう民間に委託され、小6分をベネッセコーポレーションが、中3分はNTTデータが受託した。

 問題を作った国立教育政策研究所(国研)は「試験に合格した人が研修を経てやっている。大学生や大卒レベルの人が中心」としている。中3分を受け持つNTTデータは「基準が変更されると採点をやり直している」と説明しているが、採点者の間では戸惑いが広がっているという。

 採点は、解答を読み込んだパソコンを操作し、割り当てられた特定の問題を集中的に見る方法で行われている。国語のある問題を受け持った男性は「採点が始まって間もない5月半ばには大混乱になった」と話す。あらかじめ示された正誤の基準にない解答がいくつも出てきて、○×の正誤例が次々と張り出された。判断に迷う場合は、採点会場に配置された責任者の「リーダー」に確認する仕組みだったが、リーダーが代わると判断が変わるなど、作業は何度も中断したという。

 前日まで誤りだった解答例を「正解にする」と指示され、同じ問題の採点者同士で「マルでよかったのか。ずいぶんバツにしちゃったよ」と顔を見合わせたこともあるという。

 国語担当の別の男性も「5月中旬まで正答だった解答が、4日間の中断後に作業を再開したらバツになった」と話す。類義語でも正誤が分かれていたのがそろって正解になったり、逆に誤りになったりしたという。

 誤字をどこまで許すかなどの判断も揺れた。張り出された正誤例のほか、リーダーによる口頭での補足説明もあったが、ある時期からメモを禁じられ、「とても覚えきれなかった」と振り返る。

 数学の記述式問題を採点した男性も「同じ解答で、午前のリーダーは正解と言い、午後のリーダーは間違いだと言う。リーダー同士で『これはマルかな』と相談していたこともあった」と話す。この男性は、無料の求人誌で「中学生の国語・数学のテスト採点」という広告を見て、募集元の人材派遣会社に連絡。同社の事務所で試験を受けて採用され、その後の研修中に全国学力調査の採点だと知ったという。

 採点作業に参加した派遣労働者から、「事前に示された勤務数が大幅に削られ、見込んだ収入が得られなかった」との相談が「派遣ユニオン」に舞い込んだのがきっかけで、採点現場の一端が明らかになった。

 文科省は「採点基準を途中で変えることはない。ただ、判断に迷う微妙な解答もあり、経験を積んだリーダーが基準に照らして正誤の判断をしている」と話している。採点に派遣労働者が加わっていることについては「研修をして水準は確保している」と説明、問題はないとしている。

 NTTデータは、リーダーを含む採点スタッフ約3000人のほとんどを、人材派遣会社数社を通じて集めたという。「採点基準の変更はリーダーを通じて周知している。作業は適正」としている。

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 〈キーワード:全国学力調査〉 学力低下への不安の高まりを背景に、文部科学省が4月24日、原則として国公私立の小6、中3全員を対象に実施。一斉テストとしては43年ぶりで、小6の117万人、中3は116万人が受けた。科目は国語と算数・数学で、問題作成と結果分析を除いて大半の業務を民間に委託した。

 基本的な学力を問う「知識」に加え、資料や文章を読み解いて考えをまとめる記述式の「活用」を盛り込んだのが特徴。中3では、「知識」「活用」とも試験時間は各教科ごとに45分ずつだった。「活用」は正答例が一つではないため、国立教育政策研究所(国研)が採点基準を決め、国研と民間企業が細かい判断基準を詰めた。調査費用は77億円で、うち民間への委託料は62億円。結果は早ければ8月に公表される。

http://www.asahi.com/life/update/0614/TKY200706140340.html