記事登録
2007年06月14日(木) 03時00分

NOVA、不正の山 看板サービスでも朝日新聞

 レッスンを受けたくても受けられない。解約したくてもできない。英会話学校最大手の「NOVA」は、受講者にうそを重ね、正当な返金に応じてこなかった。背景には、「1000教室」を目指した拡大路線の中で、市場規模の縮小とともに経営が圧迫されていた事情があった。生き残るために顧客をないがしろにした数々の違法行為。経済産業省も、こうしたNOVAのやり方を見過ごすことはできなかった。

 ●お茶の間留学・子ども向けでも不正行為

 特定商取引法(特商法)の条文6項目、18種類にわたっていた違法行為。その中には「NOVA KIDS」や「お茶の間留学」といった看板サービスを巡るトラブルも含まれていた。「一つの会社で、これだけ多くの違反行為を指摘するのは異例」(経産省幹部)という。

 特商法では、サービスの提供に必要な商品を「関連商品」と呼び、消費者が契約後8日以内なら無条件で解約できる「クーリングオフ」の制度を利用したり、中途解約したりした場合には、応じなければならない。

 しかし、NOVAはテレビ電話システムを使ったレッスン「お茶の間留学」では、9万円前後と高額なテレビ電話装置について「解約の対象外」などと主張し、返金に応じなかった。パッケージの一部を開封しただけの未使用教材でも、返品に応じなかったという。

 人気の高い子ども向け英会話「NOVA KIDS」も、契約時に入学金や月謝3カ月分など計5万円以上を請求しており、特商法の規制対象になる。ところが、NOVAは「月謝制なので、クーリングオフできない」などと説明し、期間内に契約解除を申し出ても拒否。契約内容を明らかにした書面も渡さなかったという。

 講師が待機した部屋で自由に会話ができる「VOICE」というサービスでは、通常の英会話コースとセットで契約しなければならないかのようなうそを告げていた疑いが指摘された。「違反事例が少ない」などの理由で処分対象からはずれたが、行政指導を受けた。

 うその説明をしてクーリングオフを受け付けていなかったが、NOVAはその際、「経産省の許可を得ている」などと説明したという。同省幹部は「そんな事実はない」と怒りをあらわにする。

 ●急拡大・低価格、経営に影

 「規模拡大で経営管理が希薄になった」。13日夕、大阪市内で会見したNOVA創業者の猿橋望社長は、トラブル多発の原因を、そう説明した。

 規模拡大は猿橋社長にとって最大の目標だ。81年に大阪・心斎橋で第1号教室を開設して以来、「1000教室達成」をスローガンに拡大路線を突き進んできた。

 500教室を突破したのは開業から20年目。さらに、04年末からの1年半で、新たに300を超す教室を開設した。

 しかし、順調だったのはここまで。06年3月期には30億円の最終赤字に転落し、69教室の閉鎖に追い込まれた。

 後発だった同社は、徹底した「低価格」戦略を打ち出した。「NOVAが旗印とした1レッスン1200円は業界水準の3分の1以下。人件費も家賃も出ない」(業界他社)と、採算性を疑問視する声も多かった。

 質より量の拡大を優先する無理な経営の結果、いつでも受けられるはずのレッスンの予約が取れないなど、受講者の不満が増加。改善のため講師を増やそうにも決算が赤字で増やせない、という悪循環に陥っていた。「NOVAのやり方には無理があった」(業界関係者)。今回のトラブルを、NOVA固有の問題とみる声は少なくない。

 ただ、外国語会話教室の経営を取り巻く環境は、総じて厳しい。

 経産省の特定サービス産業動態統計調査によると、外国語会話教室の新規入学生数は、04年10〜12月期から07年1〜3月期まで10四半期連続で前年同期割れ。売上高の伸びも、07年1〜3月期は前年同期比23%のマイナスだ。「韓流ブームで一時は盛り上がったが、主流の英会話は受講者数の減少が止まらない。募集キャンペーンが効いていない」(調査統計部)と、経産省は見る。

 「主な顧客だった20歳代前後の人口が減少。高齢者や低年齢層への拡大も簡単ではなく、先行きは厳しい」(全国外国語教育振興協会の桜林正巳事務局長)。伸び悩む市場の奪い合いが続き、中小の外国語教室では、経営が行き詰まる例も珍しくない。

 ●経産省、消費者保護を重視

 「業界寄り」と批判されがちな経産省だが、最近は悪質商法の摘発や製品事故の対応などに力を入れ始めている。

 「20近い違反があり、消費者の信頼を裏切った。法律の趣旨からして、ほかの会社と同様の処分が妥当だ」

 処分を発表する記者会見で、経営への影響を尋ねる質問が続く中、諏訪園貞明・消費経済対策課長は指摘した。

 特商法は訪問販売、通信販売、電話勧誘、マルチ商法など消費者とのトラブルが起きやすい商取引を対象に、トラブル防止のルールを定め、事業者の不公正な勧誘などを取り締まる法律だ。

 語学教室もエステティックサロンや結婚紹介サービスなどとともに特商法の規制対象になっている。事前に高額な支払いをして、長期のサービス提供を受けるが、効果が目に見える形で表れるとは限らず、トラブルにつながりやすいからだ。

 NOVAからは省内の多数の幹部に「処分されれば経営に重大な影響を与えるので回避してほしい」といった内容の陳情があったとみられる。しかし、消費者保護に力点を置き、語学学校の契約を通常の取引とはっきり区別している特商法の趣旨を踏まえれば、今回の行政処分の判断は避けられなかったと言える。

http://www.asahi.com/national/update/0613/TKY200706130392.html