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2007年06月14日(木) 01時49分

6月14日付 編集手帳読売新聞

 幕末に黒船がやってきて、神奈川や兵庫などに外国人の居留地ができた。英語を話せない日本の商人は、「浜千鳥」という言葉を頭に刻んでおいたという◆外国人の客がその言葉を口にしたとき、「ははん、値段の話だな」と見当をつけた。「浜千鳥」は英語の「ハウマッチ・ダラーズ?」(これ、いくら?)、客と意思の疎通を図るべく編み出した涙ぐましい知恵だろう◆当節はありがたい時代で、英会話学校という便利なものがある。心を通わせ合う技術を伝授してくれる学校も、しかし、利用者との意思疎通がお粗末極まれば、ありがたみは半減しよう◆曜日や時間帯で予約のとりにくい授業があるのに、いつでも予約が可能であるような説明をしていたとして、英会話学校の最大手「NOVA」が経済産業省から一部業務停止を命じられた◆向こう6か月間、1年を超す新規の長期契約を交わすことができない。英会話学校に対する業務停止命令は初めてで、単なる言葉足らずを超えた虚偽説明を厳しくとがめられた形である◆NOVAのイメージ・キャラクター、ピンク色をした不思議な動物は、外国語を聞き取るウサギの長い耳と、達者にしゃべる鳥のくちばしを持っている。欲しいのは、顧客の声を真摯(しんし)に聴く耳であり、意思の疎通に心をくだく浜千鳥のくちばしである。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070613ig15.htm