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2007年06月10日(日) 08時01分

自治体が違法な徴収例 「消えた年金」一因か朝日新聞

 過去に未納だった国民年金保険料を一括して納められるように70年代に行われた「特例納付制度」をめぐり、社会保険事務所が担うべき保険料の徴収業務を、一部で自治体が行っていた例があることが9日わかった。「消えた年金記録」問題では、特例納付の記録が消えるケースが目立ち、国会でも議論になっているが、こうした違法な処理が一因だった可能性が出てきた。社会保険庁は同様の例が他の社会保険事務所にも広がっていた可能性があるとみて、全国的な実態調査に乗り出す。

保険料の特例納付の流れ

 特例納付は、過去に保険料を支払わなかった人の救済措置として、70〜72年、74〜75年、78〜80年の3回実施。当時、国民年金の支払窓口は市町村だったが、特例納付は社会保険事務所に直接支払うよう省令で定められていた。

 朝日新聞が入手した72年当時の土浦社会保険事務所(茨城県)の所長名義の領収書2枚には、同事務所ではなく管内の龍ケ崎市の領収印が押されていた。30代の男性が2回に分けて10年分の保険料を支払った際に受け取ったものだ。この記録は社保庁のコンピューターに入力されていたが、記録の扱いをめぐるトラブルから男性が02年、厚生労働省に審査を請求。同省は「事務所ではなく市が保険料を受け取った」と認定した。

 これまで社保庁は、市町村で特例納付をしたのに記録が残っていないという受給者らに「市町村で受け付けることはありえない」として修正に応じてこなかった。しかし龍ケ崎の例が明らかになったことで、当時の職員ら関係者から事情を聴くなどして、他にも違法な特例納付が行われていなかったか調査する。

 男性の請求を代行した社会保険労務士の井原誠さんは「身近な市の窓口で特例納付もできるよう社会保険事務所と役所が協力したのだろう。各地で一般的に行われていたのでは」と語る。一方、社保庁幹部は「明らかな違法行為」としたうえで、住民への便宜が狙いだったとしても「違法な手続きだからミスが起きやすいだろうし、帳簿に記録を残せないケースも考えられる。事務所や自治体の職員が着服したとしても証拠がないからわからない」という。

 国会の「消えた年金」論議では、特例納付の記録がなくてその分の年金を受け取れないと主張する人の例がたびたび取り上げられており、8日の参院厚労委員会では3人が参考人として証言。うち2人は75年に横浜市の窓口で納付したが、記録が消えたという。民主党の小沢代表も党首討論で神奈川県茅ケ崎市の女性のケースを紹介した。このほか、80年に静岡市で支払った14年分の記録が見つからず無年金となったという人がいることも判明した。

 政府は、年金記録が消えている場合に支給の是非を判断する第三者委員会を総務省に置く方針。特例納付の実態調査の結果は、判断基準づくりにも大きく影響しそうだ。

http://www.asahi.com/politics/update/0610/TKY200706090285.html?ref=goo