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2007年06月08日(金) 02時01分

監視する新幹線 N700系全ドアにカメラ60台朝日新聞

 東海道・山陽新幹線に7月1日から導入される新型車両「N700系」の車内デッキに、防犯カメラが設置された。JR各社によると、在来線も含めて初の試みという。列車の運行妨害行為や車内での犯罪を抑止するのが狙い。ただ、特定の人物の行動をより詳しく追跡することが可能になるため、監視強化を懸念する声も出ている。

車内での犯罪抑止のため、新型車両「N700系」の出入り口上部などに設置された防犯カメラ

 カメラは16両編成に計60台設置されている。58カ所あるすべてのドアの上部と、運転席の入り口上部の2カ所。内壁に埋め込まれ、「防犯カメラ作動中」のシールが張られている。

 運転中は列車内のハードディスクに常時録画し、前後の運転席などで画像を見ることができる。録画はJR東海と西日本が一定期間保存するが、両社は「法令に基づいて警察や裁判所などに提供する以外は外部に出すことはない。プライバシー保護のため社内で規定を設け、厳正に取り扱う」としている。

 乗客による乗務員への暴行は06年度に東海道新幹線で12件、山陽で5件起きた。事故時などにドアを開けて脱出するための非常用ドアコックを、乗客が「乗り間違えた」などの理由で使用し、列車を止める例も相次ぐ。今年3月24日には、静岡県内を走行中の新幹線から男性会社員が飛び降りて死亡し、約2万3千人に影響した。

 昨年8月と12月には、JR西日本の普通列車内や在来線特急「サンダーバード」車内のトイレと洗面台で、女性に暴行を加えたとして男が強姦(ごうかん)容疑で逮捕された。車掌は異状に気づかず、乗客からの通報もなかったとされる。

 今回、新幹線に取り付けた防犯カメラには、トイレや洗面台の様子は写らないものの、両社は「犯罪の抑止効果も含め、車内の秩序を守るのに役立つ」と説明している。

 鉄道のホームには、防犯や安全対策のため監視カメラが設置されている。新型新幹線では今後、犯罪の容疑者や不審人物がどの車両に乗り、どの駅で降りたかの追跡がしやすくなる。

 JR側は映像の解像度について、「コンビニエンスストアの防犯カメラを想像してもらいたい」とし、詳細は明らかにしていない。だが、05年7月の英ロンドン地下鉄テロ以降、鉄道のテロ対策を推進している国土交通省危機管理室は「列車テロ対策にも有効と考えている」と期待する。

 一方、市民団体「監視社会を拒否する会」(事務局・東京)は、鉄道各社に監視カメラ増強の動きについて質問状を出すなど、警戒感を強めている。共同代表の田島泰彦・上智大教授は「列車内で犯罪が頻発しているという状況ではない。予防の名目で、犯罪の具体的な根拠もなく、大多数の善良な市民を監視することが正当化されるのか。プライバシーや肖像権に何の配慮もなく撮り続けていいのか」と疑問を投げかける。

http://www.asahi.com/national/update/0608/OSK200706070102.html