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2007年06月05日(火) 02時46分

17年ゼミ、競合少なく数増える 今夏70億匹? 米国朝日新聞

 17年ごとに大発生する米国の「17年ゼミ」の羽化が、イリノイ州など米中部でピークを迎えている。今年の予想発生数は世界の総人口を上回る70億匹。米国では「うるさい」「庭木が傷む」「掃除が大変」など悪役と見なされがちな17年ゼミ。しかし、その正確な体内時計には「進化の不思議」が詰まっている。

続々と羽化する17年ゼミ=シカゴ郊外で

 イリノイ州シカゴ郊外へ、静岡大の吉村仁教授(進化理論)とセミ捕りに出かけた。住宅地のわきの森に入ると、赤い目の17年ゼミが、木の幹だけでなく、周囲の草にも鈴なり状態だった。

 全長は4センチほど。日本のニイニイゼミ並みだが、細身なのでより小さく見える。そのうえ無防備で簡単に捕れる。

 「17年ゼミは長い距離を飛べない。大発生するので、遠くまで結婚相手を探しに行く必要がなかったのでしょう」と吉村さんは説明する。

 よく見ると、ひとまわり小さいセミが交じっている。大きい方は腹がオレンジ色なのに、小さい方は黒い。大きい方は「セプテンデシム」、小さい方は「カッシーニ」で種が違うという。ほかにもう1種、小型の17年ゼミがいるそうだ。

 シカゴの歴史・自然史博物館「フィールド博物館」のダン・サマーズ昆虫収集部長によると、今年の羽化の第一報は5月19日。「前回の60億匹を超え、70億匹は発生するとみられている」。大発生は1カ月ほど続く。

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 17年ゼミは、南部で13年ごとに大発生する「13年ゼミ」と、遺伝的に近い。両者は発生地域と発生年が異なる計15の「族」に分かれている。

 吉村さんは今年から各族のセミを採集し、遺伝子の違いを調べる計画だ。「17年ゼミと13年ゼミはどう分化したのか。各族の関係はどうなっているのか。進化の歴史を再構築したい」

 なぜ大発生の周期は17年と13年なのか。謎を解くカギは、17と13が「素数」(1とその数自身でしか割り切れない整数)ということにある。

 たとえば16年、17年、18年ゼミがいた場合、周期が素数の17年ゼミは他のセミと最も出合いにくい。16年ゼミは18年ゼミと144年ごとに出合うが、17年ゼミとの出合いは272年に1回だ。

 吉村さんによると、17年ゼミだけが他のセミとの競合が少ない分、数が増える。たまに他のセミと出合っても、数が多いので交雑を免れ、正確な体内時計を維持できる。

 「素数でも11年では成長に時間が足りず、19年では長すぎて死亡率が高まり、生き延びられなかった」と推測する。

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 地球は温暖化が進んでいる。体内時計が狂うことはないのか。フィールド博物館のサマーズさんは「大発生の周期がずれることはありうる」と言う。根拠は69年の「異変」だ。この年、今年と同じ族のセミの一部が4年も早く羽化した。

 イリノイ州で自然保護に取り組む非政府組織「LCFP」のジェニファー・フィリピアクさんは「地中にいる17年の間に温暖化で森林が減ったり、生息地が水没したりすれば、それこそ生存の危機です」と心配する。

http://www.asahi.com/science/update/0604/TKY200706040260.html