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2007年04月29日(日) 03時03分

<いじめ自殺>遺族に給付金不払いの可能性 自宅は対象外毎日新聞

 学校での事故などが原因で死亡したり、けがをした児童生徒に災害共済給付金を支給する独立行政法人・日本スポーツ振興センター(東京都)が、いじめを苦に自宅で自殺した福岡県筑前町の中2男子生徒の遺族に給付金を支払わない可能性が高まった。内規の運用で、自殺の原因ではなく、場所を基準にしているためだ。学校が管理する校内や通学路では支給するが、自宅は対象外になるという。遺族側は「町教委が学校でのいじめと自殺の因果関係を認めているのにおかしい。制度の運用に不備がある」と疑問視している。
 支給を求めているのは、昨年10月に自殺した筑前町立三輪中2年、森啓祐君(当時13歳)の両親の順二さん(40)と美加さん(36)。
 給付金はセンターと学校設置者の教委が契約し、学校側がセンターに支給申請手続きをする。遺族が3月、弁護士を通じて給付の見通しを尋ねたところ、センターは「現状の運用に従うと、学校管理下の外で起きたと受け止めている。支給の対象にならない可能性が高いが、申し込みはしてほしい」と話したという。遺族は4月に町教委を通じて申請した。
 センター施行令によると、児童生徒が死亡した場合の給付の範囲は「(死亡の)原因である事由が学校の管理下において生じたもので、文部科学省令で定める」となっている。自殺については省令やセンター内規にも言及がないため、センターは校内でのいじめが原因で自殺したケースでも、支給の可否は自殺現場によると解釈している。一方、校内のいじめが原因で心の病気になった場合は給付対象としている。
 北海道滝川市で05年9月、小6女児がいじめを苦に教室で自殺を図り、死亡したケースでは06年6月、死亡見舞金が支給された。
 森君の自殺について町教委は昨年12月、「(原因は)学校での長期に及ぶからかいや冷やかしの蓄積による精神的苦痛が原因だ」などとする調査報告書をまとめた。遺族側弁護士は「自殺場所が自宅だったという理由だけで支給できないとするのは制度の理念に反する」と指摘している。
 センター福岡支所は「批判があるのは承知しているが、自殺の場合、原因が分からない例が多く、原因よりも場所によって給付の可否を決める方が救済範囲が広がるという判断だ」と話している。【川名壮志、高橋咲子】
 ▽災害共済給付制度 国と学校設置者、保護者の負担による共済制度。登下校や課外授業を含む学校の管理下での事故や事件で、児童生徒がけがをしたり、死亡した場合、学校設置者からの申請で、医療費・死亡見舞金などが支給される。死亡見舞金は最高2800万円。通学路で亡くなったり、教室での授業中に突然亡くなった場合は半額になる。運営する日本スポーツ振興センターは、日本学校安全会などが前身で、03年に設立された。全国で保育所から高専までの児童・生徒らの97%(06年度)が加入している。
 ◇柔軟運用すべきだ
 ▽諸澤英道・常磐大理事長(被害者学)の話 町教委も学校でのいじめと自殺の因果関係を認めている。自殺場所が自宅であることを理由に不支給とするのはおかしい。原因が学校での教育に関連していると解釈し、柔軟に運用すべきだ。同様に救済されなかった事案は他にもあると想像されるが、被害に遭った児童や生徒を救うのが制度の趣旨だから、できる限り支給できるよう内規を変えていくべきだ。
 ◇いじめ対応も柔軟に運用を
 日本スポーツ振興センターの災害共済給付制度は、学校での死亡やけが、病気になった児童生徒とその家族を広く救済することに大きな意義がある。このためセンターは、内規に基づき柔軟に運用しているが、いじめで子供が自殺したケースでは、自殺した場所で区別するという極めて硬直した運用に陥っている。
 確かに制度の根拠となる法施行令や文部科学省令には「いじめ」の文言はない。いじめなどが社会問題化する以前の1960年にできた古い制度だからだ。それでもセンターが内規の改正で現実に対処しようとしてきた面もある。大阪の池田小乱入殺傷事件を受け03年、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、いじめが原因の精神疾患を支給対象として明文化した。
 一方、生徒の死亡事故を巡る訴訟の判決で、東京地裁は91年、内規について「法令としての効力を有しないことは明らかで、一応の参考資料にすぎない」との見解を示している。内規を限定的に解釈しないよう求めた司法判断といえる。
 学校でのいじめが原因の自殺であっても、子供たちが死を選ぶ場所は学校とは限らない。だが、センターのこれまでの運用では、いじめに起因する心の病気には広く支給しても、自殺の場合は救済が制限されるという矛盾が生じる。
 いじめ自殺の遺族の多くは金銭ではなく、「学校でのいじめがわが子を死に追いつめた」という事実を重視している。「いじめの場所(学校)」と「自殺の場所(自宅など)」を切り離して不支給とする運用は、結果的に「いじめ自殺」の事実を消し去ることにもなりかねず、遺族の救済からも遠ざかる対応と言える。【高橋咲子】

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070429-00000009-mai-soci