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2007年04月29日(日) 23時45分

「日本紳士録」無期休刊へ 掲載辞退増で「使命終えた」朝日新聞

 人名録として国内で最も長い歴史をもつ「日本紳士録」が、4月に発行された第80版で休刊し、120年近い歴史に幕を閉じることになった。名前が載ることが社会的地位の象徴とされた時代が続いたが、詐欺事件に利用されたり、個人情報の取り扱いに対する警戒感が高まったりした影響で、掲載を辞退する人が増えたためだ。刊行を続ける他社でも住所や経歴などの掲載を断る人が増えており、人名録には「冬の時代」が続きそうだ。

休刊が決まった「日本紳士録」

 「日本紳士録」は1889(明治22)年、福沢諭吉の提唱で設立された社交団体「交詢(こうじゅん)社」が、初版を発行した。納税額を基準に著名人約2万3000人が名を連ねて評判を呼び、3年後の第2版の掲載は約3万3000人に急増した。以後、1世紀以上にわたって版を重ね、1971年からは、交詢社から独立した「交詢社出版局」(東京都新宿区)が編集を続けてきた。

 掲載は無料。氏名、住所、出生地、最終学歴、現職、勤務先住所、配偶者名など計20項目。内容の確認を兼ねて原稿を本人に郵送し、掲載の許可を得る。掲載件数は2000年ごろ、最大の約14万人に達した。

 ところが近年、掲載を拒否する人が急増し、第80版は10万人を下回った。同社営業部次長の内田義治さんは「(紳士録を材料にした)詐欺被害が相次いだのに加え、個人情報保護法の施行が大きい」と説明する。

 掲載された連絡先に電話して「掲載や削除が有料になった」と代金を請求する詐欺は、「古典的な手口」として以前からあったが、警視庁が05年に詐欺や恐喝などの容疑で14人を逮捕した事件では、14億円以上を脅し取られた元会社員もいて、社会的な注目を浴びた。国民生活センターや各地の消費生活センターに寄せられる同様の相談は年間計2000〜3000件に達している。

 また、05年の個人情報保護法の施行後は、住所や家族の名、経歴などを伏せるよう希望する人も目立って増えた。同社は「残念ながら日本紳士録は使命を終えたものと判断せざるを得ない」として、第80版を最後に無期休刊とし、会社も近く解散することを決めた。

 掲載を希望しない人は他社でも増えている。1903(明治36)年から「人事興信録」を発行する「興信データ」(東京都千代田区)によれば、同社が今年3月に発行した最新版の第44版は、掲載人数は約8万人。3〜4年前から掲載を断る人が増えており、10年前より約3割減ったという。

 故人や海外の人物を含め、約32万人の情報をネット検索できるデータベース「人物文献情報 WHO」を製作する「日外アソシエーツ」(東京都大田区)も、新規掲載を断られる事例が5年ほど前から増えたという。

 同社は約12万2000人を掲載した「現代日本人名録」をはじめ、著者別や学術分野ごとの人物事典を、有料データベースやCDで商品化している。研究者らは協力的な人が多いが、経済界や芸術家には掲載許可を得るための本人確認さえ拒否反応を示す人もおり、商品化を断念した分野もあるという。

 同社データベース編集部の森岡浩さんは「不正確な情報がまじることもある無料のネット検索で済ませてしまう人も多い。正規出版物が減ると、ヤミで流出した名簿や本人に無断で収集した個人情報など、不正な情報の価値を高めてしまう危険もあるのではないか」と指摘している。

http://www.asahi.com/life/update/0429/OSK200704290022.html