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2007年04月10日(火) 02時08分

4月10日付・編集手帳読売新聞

 明治天皇の前で、醤油(しょうゆ)の「亀甲萬(きっこうまん)」やお酢の「丸勘(まるかん)」のマークを描き、商標を説明した官僚がいた。「見た人がすぐに醸造元を想像できるよう、商標は一種の専用だから保護するべきです」◆大きな声でご進講した人は、約40年後に首相になる。「ダルマ宰相」と呼ばれた、若き日の高橋是清である。独創的な発明に対する特許や商標の重要性を、外遊などを通じて学び、日本の特許と商標制度の基礎をつくった功労者だ◆1885年(明治18年)、初代の専売特許所長となり、4月18日に専売特許条例(現在の特許法)を公布した。戦後になって、この日は「発明の日」に指定されている。氏の業績を称(たた)え、特許庁の玄関に胸像がある◆条例に基づく日本の特許第一号は、東京在住の堀田瑞松(ずいしょう)が発明した「堀田式錆(さび)止め塗料とその塗法」だった。漆、ショウガ、柿渋などの成分を混ぜた塗料を塗り重ねて錆を防いだ。出願から1か月半で認可されたという◆120年余りがたった今では、特許の出願件数は年間40万件に達する。出願しても実際に審査を請求できるまで3年待たされる。7年かかった数年前より短縮されたとはいえ、特許取得の道は遠い◆胸像をご覧になれば分かるが、“ダルマ長官”の目つきはやけに鋭い。特許の審査をもっと急げと、催促しているようにも見える。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070409ig15.htm