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2007年04月10日(火) 00時00分

アナゴ料理(広島県廿日市市)読売新聞


佐村スヱ子さんの角寿司。トッピングのパセリとでんぶが春らしい。祭りや祝い事があれば寿司を作るそう

 世界遺産・宮島のグルメといえば、駅弁のあなごめしが全国的に知られている。聞けば、瀬戸内海でも宮島の北岸と本州にはさまれた、大野瀬戸でとれるアナゴは特においしいという。地元、大野浦の主婦に、とれたてのアナゴを使った家庭料理を披露してもらった。

弾力ありかむほどに味が出る
脂ののった宮島周辺のアナゴ

 山陽線大野浦駅で電車を降りると、ホームを抜ける風がふわっと温かい。カキ筏が浮かぶおだやかな瀬戸内海沿岸に開けた旧大野町は、対岸に宮島を望むのどかな漁師町。駅から車で10分ほどで、上の浜漁港に到着。漁師の松本博和、義孝さん兄弟が迎えてくれた。

 「大野瀬戸のアナゴは丸々太ってるから、市場でも2割は高い。やっぱり畑(=海底)がいいからじゃろ」と博和さん。広島の太田川や岩国の錦川が流れ込む宮島周辺の海は豊かな上、幅600メートルほどの大野瀬戸は流れが早く、砂の状態がいい。そのためアナゴのエサとなるゴカイやカニなどが多く、良質のアナゴがとれるという。


アナゴ料理を作ってくださった地元のみなさん

 「漁獲量は多くないのでなかなか県外に出回りません」と大野町漁協の廣畑裕一郎さん。この貴重なアナゴを料理してくれる主婦5人が待つ集会所へ足早に向かった。

 集会所には、松本さん兄弟が前の晩にはえ縄漁で釣り上げたというアナゴとナマコが届いていた。「今日は角寿司と酢の物、茶碗蒸しを作るけん。この地方では寿司といったらアナゴかアサリを入れるんじゃ」と、ご主人がアナゴ漁師だったという佐村スヱ子さんがまず得意の角寿司にとりかかった。

 最初に酢飯の間に入れる具を作る。ゴボウ、ニンジン、タケノコ、インゲン豆、シイタケを細かく刻み、アサリや小エビとともに、甘辛く煮る。これが甘すぎず辛すぎず絶妙の味付け。調味料の分量を聞くと「目分量じゃけぇわからん」。

 炊き上がったご飯を酢飯にする横で、高原清香さんが七輪でアナゴを焼きだした。たれをつけては焼き、つけては焼き……。アナゴとたれのこげる匂いが台所にたちこめる。「これやから内証でできん。アナゴは」と皆さん大笑い。


 角寿司の木型は5センチ角の寿司が10個できるようになっていて、ご飯、具、ご飯、2センチに切ったアナゴの順に重ねてパセリ、桜でんぶをのせ、上からぎゅうっと押し出したらでき上がり。薄くスライスしたナマコとアナゴの酢の物や、7種類の具が入ったアナゴのせ茶碗蒸しも作ってくれた。

 寿司はまろやかな味わいの酢飯と、甘辛い具、香ばしいアナゴが見事に一体となっている。アナゴは弾力があり、深みのある味わい。酢の物はコリコリのナマコと、やわらかいアナゴの食感の違いがおもしろいし、酢とアナゴ、ユズの香りが鼻の奥を刺激する。茶碗蒸しは少し甘めだが、アナゴのこげた苦味とぴったり。

 アナゴはウナギと比べて脂肪分が半分で、ビタミンAが豊富というヘルシーな食材。それでいておいしい。アナゴの魅力を再発見したもてなしの家庭料理だった。

(文/中 文子 写真/酒井羊一)

旅行読売5月号より

http://www.yomiuri.co.jp/tabi/gourmet/fudoki/20070410tb01.htm