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2007年04月06日(金) 01時26分

4月6日付・読売社説(2)読売新聞

 [イージス艦情報]「これが国防を担う組織なのか」

 これが国防を担う組織なのかと疑う。それほどずさんな情報管理体制だ。

 海上自衛隊の護衛艦に乗り組む2等海曹が、イージス艦に関する情報を持ち出していたことがわかり、神奈川県警と海自の警務隊が捜査を始めた。

 流出ルートなど、まだ不明の部分が多い。情報の一部は秘匿性の高い、日米相互防衛援助協定に伴う「特別防衛秘密」にあたる可能性があるという。警察と海自の共同捜査は異例だが、縄張り意識を排し、全容の徹底解明が必要だ。

 県警が今年1月、2曹の中国人の妻を不法滞在の容疑で逮捕し、自宅を捜索した際、ハードディスクなどを押収したのが発端だった。その中には、イージス艦に搭載されたレーダーの性能や迎撃システムの秘密情報も記録されていた。

 イージス艦は世界でも最高の防空能力を持つ護衛艦で、ミサイル防衛の中枢の役割を担っている。海自は現在、5隻を保有しているが、そのイージスシステムは米国から供与されたものだ。

 流出した情報については、さらに詳細に分析する必要があるものの、米国との信頼関係にも深刻な影響が出かねない問題だ。他国に情報が渡ったら、日本の安全も脅かされる。

 もとは1998年にイージスシステムが更新された際、保守管理担当の3等海佐が、幹部に解説したり担当者を教育したりする内部資料として作成した情報ファイルだったらしい。

 2曹は、同僚のパソコンからわいせつ画像をコピーしたら「イージス艦の情報ファイルも一緒に入っていた」と供述しているという。別の下士官にも同じ情報が渡っていたという。いったい情報ファイルは、どう管理されてきたのか。

 もっと広範囲に流出している可能性もある。2曹から第三者や海外に流れた形跡はないというが、そう簡単に結論づけて済む問題ではない。

 海自に限らず、防衛省では情報流出の不祥事が繰り返し起きてきた。そのたびに管理体制を見直し、綱紀の粛正を徹底してきたはずだった。

 組織全体の規律が緩み、防衛機密を扱っているという重大性の認識に欠けているのではないか。日米間には、第三国への軍事機密漏洩(ろうえい)防止を主眼とした「軍事情報一般保全協定」の締結に向けた動きもある。根本から再発防止策を考え直す一つの機会だろう。

 日本には、諸外国では当たり前の、国家機密や防衛機密に関するスパイ防止法がない。この際、政府として法整備の在り方についても検討すべきである。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070405ig91.htm