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2007年04月05日(木) 01時44分

4月5日付・読売社説(1)読売新聞

 [民法772条]「親子関係はDNAで判定できる」

 DNA鑑定によって親子の判定が簡単に出来る時代だ。そうした科学技術の進歩を法制度の中に反映させていくのは、当然のことだろう。

 離婚後、300日以内に誕生した子は、前夫の子と推定する民法772条の運用を見直す特例法案が、近く与党から今国会に提出される見通しだ。

 772条は、子の扶養義務を負う父親を法的に明確にし、家族関係の安定をはかるため、1898年の民法施行時から設けられている規定だ。

 再婚相手の子か、前夫の子かについての科学的判断の難しい時代に作られた制度が、今日まで続いている。

 前夫の子でないことを法的に確定するには、嫡出否認や親子関係不存在確認などの裁判手続きが必要だ。

 離婚後に妊娠した子が、300日以内に生まれるケースは少なくない。医療の進歩により、早期出産も増えている。

 家庭内暴力が原因で別れた場合、前夫の協力が得られず、手続きに手間がかかることもある。出産直後の母親にとって裁判手続きは大きな負担でもある。

 子供の戸籍には、審判の事実や前の夫の氏名が残る。新しい家庭を築く上で、心理的な重圧ともなりかねない。

 煩雑な手続きを嫌った母親が出生届をしなかったため、子が無戸籍のままという事例もある。

 与党の法案は、DNA鑑定書など一定の書類があれば、裁判手続きを経ずに、再婚した夫の子としての出生届を認めようというものだ。

 手続きが簡略化されることで、当事者の負担も大幅に軽減される。

 現在、家庭裁判所がDNA鑑定を行う場合、鑑定機関が裁判所に出向いて、関係者の体の組織を採取するなど、慎重な手順が踏まれている。

 新制度ではDNAデータの捏造(ねつぞう)をどう防止するかなど、細部について詰めていく必要もある。

 自民党は、特例法案と共に、女性の再婚禁止期間を現行の離婚後180日から100日に短縮する民法改正案を今国会に提出することも検討している。

 離婚した母親が、可能な限り早く再婚出来るよう配慮した法改正案だ。

 1996年の法制審議会の答申に盛り込まれたが、自民党内に異論の多かった夫婦別姓制度と併せた民法の見直しだったために、頓挫した経緯がある。

 再婚禁止期間の短縮での意見集約に時間がかかるのであれば、別個に議論するのも一つの方法だろう。

 要は、今日の時代にそぐわない772条の運用を早急に見直すことだ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070404ig90.htm