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2007年04月03日(火) 22時51分

iPod以外もOK EMI、コピー防止なしで音楽配信朝日新聞

 インターネットを介した音楽配信に大きな影響を与えるサービスが始まる。英レコード大手EMIグループが、曲の複製防止技術を使わない販売を、米アップルの音楽配信サイトを通じて5月にスタートする。互換性がうまれ、利用者は様々な携帯音楽プレーヤーで再生できるようになる。EMIとアップルはサイト利用者以外への販売機会増加を期待し「開放路線」をとる。

 EMIとアップルの2日の発表によると、EMIが、保有する最大30万曲をアップルの音楽配信サイト「iTunesストア」に提供。5月から全世界で販売を始める。1曲当たりの価格は従来より30セント高い1ドル29セントとするが、音質を向上させたという。従来の複製防止技術つきの音楽配信も並行して継続する。

 デジタル音楽は音質を劣化させずにやりとりできるため、権利者の許可を得ない複製が簡単にできる。このためレコード会社は、複製防止技術「DRM(デジタル著作権管理)」を使いコピーができないようにしている。

 ただ、音楽配信サイトの運営会社によりDRMの規格が別々で基本的に互換性がない。このためiTunesストアで買った曲は同社の携帯音楽プレーヤー「iPod」でしか再生できず、利用者にとって不便だった。

 DRMを使わない音楽配信だと、配信の際に音楽データを圧縮する方式がアップルと同じなら他社製の端末やプレーヤーでも楽しめる。

 EMIが「開放戦略」に転換した背景には、販売機会を増やしたいとの狙いがある。

 世界の音楽市場で、CDなど既存音楽ソフトの出荷額は漸減傾向にある。一方で06年の全世界のネット音楽配信の売り上げは前年比倍増(国際レコード産業連盟調査)で、音楽市場の牽引(けんいん)役となる勢いだ。

 アップルのスティーブ・ジョブズ最高経営責任者(CEO)が2月、DRM廃止を提言したことも音楽配信を巡る環境変化に影響を与えている。提言の背景には、大きなシェアを握る同社のサービスに対し、欧州を中心に高まる「販売手法が独占的」との批判をかわす狙いもあるとみられる。ジョブズCEOは2日「音楽業界の正しい一歩」と評価した。

 ロンドンで記者会見したEMIのエリック・ニコリCEOは「ネット販売した音楽を好きな機器で再生できれば、消費者の不満が解消され、デジタル販売を加速させることができる」と述べた。

 ■日本も同調の可能性

 EMIの決断は、著作権者の許諾を得ない海賊版が出回る警戒感から、DRMを使ったネット配信にこだわってきたレコード業界の流れを変える可能性があるが、依然不安の声も強い。

 音楽業界では、かつて米で99年に公開されたファイル交換ソフトを通じて著作権を無視した楽曲の流通が広がり、米音楽団体が供給元を提訴して阻止した経緯がある。

 その後、iTunesストアなどDRMを備えたネット音楽配信が市民権を得た。

 デジタル製品情報サイト「WebBCNランキング」の道越一郎編集長は、EMIの判断を「ある程度海賊版が出回るダメージよりも、市場が拡大するメリットの方が大きいと判断したのではないか」と分析する。

 日本の消費者がiTunesストアで、DRMを外したEMIの楽曲を買うには、日本向け販売を担う傘下の東芝EMIが配信する必要がある。同社は「対応を検討中」というが、親会社の方針に同調する可能性が高い。「EMIが決断したことで他の大手も追随する可能性は高い」(レコード会社幹部)との見方もある。

 ただ他のレコード会社は、EMIの戦略を模様眺めの様相だ。

 ロイター通信によると、ワーナーミュージックやユニバーサルミュージック・グループは「DRMを使わない音楽販売は論理的でない」などと批判する一方、技術研究は行っているという。国内のあるレコード会社は「コピーが増えれば配信数は先細りしていくのではないか」と心配する。

 アップルに押されてきた他の携帯音楽プレーヤーメーカーには、追い風になりそうだ。

 調査会社BCNによると、携帯音楽プレーヤーの3月のメーカー別国内販売シェアは、トップがアップルの51.4%で、2位ソニーの22.4%以下を大きく引き離す。だが他社のプレーヤーでもiTunesストアを利用できる道が開けることで、消費者にはプレーヤーの購入選択肢が広がることになる。

http://www.asahi.com/business/update/0403/TKY200704030031.html