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2007年03月31日(土) 00時00分

統一選「みやぎの焦点」(3)ダム建設朝日新聞

 県内有数の豪雪地として知られる、加美町筒砂子(つつ・さ・ご)地区。雪崩のおそれで道路が通行止めとなる地域の先で、総額800億円をかけた筒砂子ダム建設の動きが加速している。着工は2012年ごろ、完成はその20年後。気の遠くなる話だ。この地域で暮らす加藤庄三郎さん(74)は「昔は林業で栄えたけど、今はお年寄りばかり。そんな場所だけどね」。
 近くを流れる筒砂子川は、鳴瀬川に連なって大崎市の下流域にたどり着く。鳴瀬川流域で第1次産業に就く人は14%。全国平均(6%)を上回り、コメを生産する農家が多い。
 「農業用水の確保が必要だ。河川のはんらんを防ぐための洪水調節も欠かせない」。ダム建設推進の理由はこう集約される。
 県の筒砂子ダム建設計画が浮上したのは、20年余り前にさかのぼる。米国から内需拡大を迫られ、各地で公共事業や生活関連投資が増え始めたころだ。筒砂子ダムの建設で国と県は計29億円を投じて地質や流量を調べてきた。といっても、周辺の二つのダムとの調整に手間取り、用地買収と着工が手つかずだった。

 政府の借金が増えた90年代後半になると公共事業の削減論が加速。00年には旧建設省が129事業を中止した。それでも筒砂子ダムは中止対象にならなかった。ダム建設の「火」を絶やさないよう、毎年予算をつけてきたからだ。

 02年には浅野史郎・前知事がいったん事業休止を表明した。ところが、議会や住民の反発で結局調査費を計上することになった。浅野氏は振り返る。「財政が苦しかったが、不必要ということではない。優先順位の問題で、長沼ダム(登米市)を先に完成させるべきだと考えた」

 さらに、国交省は06年度「当面事業促進が見込まれない」(河川局)として筒砂子ダムの補助金計上を見送った。すると、県は単独予算(400万円)を計上。事業継続に執念を見せた。

 昨年、長沼ダムの完成のメドがたつと、07年度は国と県が計5千万円の予算を組んだ。ダム事業数の減少=グラフ参照=にもかかわらず、全国で唯一のダムの「復活案件」となった。村井嘉浩知事は「ダム建設が治水に最も効果的で、今後も建設を推進する」。

 こうした動きを県内の建設業者は歓迎する。ダム本体だけでなく、周辺の環境整備のための道路工事も発注されるからだ。「大手ゼネコンが受注しても、工事をやるのは地元の業者。期待感は大きい」と話す。

 建設地近くには、将来的に四つのダムが完成する見通しだ。筒砂子ダムにつぎ込む県費は約364億円。09年度には累計で181億円の財源不足額が生じる状況で、新ダム建設をどう受け止めればよいのか。県民の判断が問われている。(橋田正城)

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