記事登録
2007年03月31日(土) 00時00分

北電事故隠し調査結果 朝日新聞

「誤信号」と虚偽報告
関係者処分は「検討」

 志賀原発1号機(石川県志賀町)の臨界事故隠しで、北陸電力は30日、富山市の本店で記者会見を開き、事故隠しの経緯や動機などの社内調査の結果を公表した。当時の発電所長は「重大事故だったが、臨界という認識はなかった」と話し、2号機の着工遅れを心配し「誤信号だった」と本店に虚偽報告すると決めたことが明らかになった。だが、当時の関係者や経営陣の処分について、永原功社長は「検討していかなければならない」と述べるにとどまった。

 会見での説明によると、経緯は次の通り。99年6月18日未明の事故直後、所長や所長代理(現常務取締役)ら14人が原発内の緊急時対策所に集まり、対応を協議した。出席者の中には「臨界事故であり報告事案だ」との発言もあったが、所長は「誤信号だった」と事実とは異なる結論を出した。出席者のうち10人が臨界事故との認識を持っていたが、所長の決定に異論は出なかった。本店や東京支社、石川支店とのテレビ会議でも「ノイズによる誤信号が入った」と虚偽報告をし、約30分で終了したという。

 社内調査に対し、所長は隠した動機を「非常用ディーゼル発電機のトラブルが起きた直後で、2号機の建設着工を控えた時期だった。公表すれば工程が遅れるというプレッシャーがあった」と説明。「臨界事故との認識はなかったが、制御棒が3本動いたこと自体が重大事だと思っていた。私が隠蔽(いん・ぺい)することを最終的に判断した」と話しているという。

 永原社長は、当時の関係者の処分について「検討していかなければならない」としたが、隠蔽工作に所長代理としてかかわった現在の常務については「重い位置にいる」との認識を示した。常務本人から「いかなる処置も受けます」と言われているという。

 ただ、経営陣の進退については明言せず、永原社長自身の進退については「今後も原因究明と再発防止に全力投球して経営責任を果たしたい」と述べた。

 また、テレビ会議で虚偽報告を受けた本店幹部が誰なのかが最後まで特定できないなど、社内調査が十分でないとの指摘が相次いだが、永原社長は「2週間精いっぱいやった。これ以上事実が出てくるかは疑問」として当時の状況について、今後調査はしない意向を示した。

◇新たに14件の不正
84年から ポンプ圧改ざんなど

 北陸電力はまた、発電設備の点検結果について発表、志賀原発1号機の循環水ポンプ吐出圧力の値の改ざんなど、新たに14件の不正があったことを明らかにした。

 経済産業省原子力安全・保安院が昨秋に全国の電力会社に指示。北陸電力では志賀原発1号機の臨界事故隠しを含め、これまで7件の不正を明らかにしており、計21件となった。時期が明確なもので最も古い不正は84年から行われていた。

 この日明らかにしたのは原子力3件、火力8件、水力3件。不正をA〜Dの4段階で評価して、最も悪質なAの不正は臨界事故隠しだけで、法律や保安規定、地元との協定のいずれかに違反し設備補修も必要になるBの不正は3件あった。

 B評価は、▽93年の志賀1号機の使用前検査で復水器冷却水の流量が安全協定で定めた基準を超えたため、ポンプの吐出圧力を改ざんすることで検査に合格させた▽富山火力発電所4号機でボイラー配管の厚さが電気事業法の技術基準で定める厚さに最大0・5ミリ不足していながら、98年と00年の定期検査で「異常はない」として運転を続けた▽水力では92年に四津屋発電所2号機(富山市)の全面改修工事で設計不良で計画した最大出力が出なかったが、計測回路を不正に変更して使用前検査に合格した。

 永原社長は会見で「組織風土にまで踏み込んだ抜本的な再発防止策に取り組みたい」と謝罪した。

◇差し止め訴訟 原告団ら憤り
「外部調査を」指摘も

 「北陸電力と共に脱原発をすすめる株主の会」事務局長で、志賀原発2号機運転差し止め訴訟原告団の和田広治さん(54)=富山市=はこれまで株主総会で事故隠しの有無をただし、内部告発者を保護する制度を作るべきだと訴えてきた。「その時は事故隠しはないとの返事だった。今さら風通しが良くなかったと言われても現場に責任を押しつける態度にしかすぎない」と憤る。

 また「社内が中心になった調査ではなく、原発反対の人を含めた外部の人たちで調査をするべきだ」と指摘。「北電に原子力発電所を運転する資格はない」と話した。

《解説》
 30日の報告で北陸電力は臨界事故隠しの原因として工程優先意識や意思決定の閉鎖性を挙げ、永原功社長は改めて「信頼を大きく損ね、深く反省し心からおわび申し上げます」と謝罪した。しかし、地元との協定に反して8年間も事故を隠蔽し続けた企業風土を変革しないことには、信頼回復への道は遠い。

 企業の不祥事発覚後の対応では、雪印や不二家などマイナス情報の開示に消極的だったため、消費者の批判を一層大きくしたケースが多い。北陸電力がそうした例を教訓にしたとは言い難い。

 同社が臨界事故隠しを発表したのは15日。翌16日には永原社長が本店で会見を開き、隠蔽について「当時は経営者まで報告が届いていなかったと思っている」と本店経営陣の関与を否定した。

 しかし、現在の役員が当時の原発所長代理として隠蔽を決めた会合に参加していたことが発覚するなど、会見で説明がなかった事実がその後次々と明るみに出た。それでも北陸電力は「調査中なのでコメントできない」との立場に終始、説明の機会を設けなかった。

 2人の外部委員を加えて設置された事故調査対策委員会も、「社内の調査」を理由に一切が非公開。いつ開催されたのかすら明らかにしなかった。そればかりか外部委員の1人が辞任、別の専門家に交代したときも朝日新聞が問い合わせるまで発表はなかった。

 志賀原発では、96年に再循環ポンプの異常を2カ月間公表せず運転を続けたほか、03年のタービン建屋内の配管からの漏水についても「安全協定に該当しない」として県などに連絡をせず批判を浴びた。

 今回も地元町議会から「人的な部分での信頼が崩れた。信頼を取り戻すのは、原発を新設するよりも一層厳しい」との声が上がる。会社の隠蔽体質を改めなければ、「地元の理解を得ての志賀原発運転再開」など到底おぼつかない。(岡田耕平)

http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000703310002