記事登録
2007年03月30日(金) 00時00分

年金支給漏れ 22万人読売新聞

社保庁 過去6年 納付記録見逃す

 高齢者が受給中の厚生年金や基礎年金(国民年金)に支給漏れが見つかり、社会保険庁が年金額を訂正した件数が、2001年4月から07年2月末までの約6年間で計21万8474件にのぼることが明らかになった。過去に短期間勤めた会社での保険料納付記録が、年金額決定の際に見落とされたことなどが原因で、ほとんどは受給者からの指摘で誤りが見つかった。支給漏れがこれほど多い実態が明らかになったのは初めてで、社保庁のずさんな給付業務が問われそうだ。

 支給漏れの件数は、社保庁が野党の資料要求に応じて明らかにした。支給漏れは2001年3月以前にも見つかっていたが、社保庁は「資料の保存年限が過ぎており、件数を確認できない」としている。支給漏れの総額や平均額も不明だとしているが、年金相談を専門とする社会保険労務士からは「1人当たり年数万円から20万円程度、本来より少なかった例が多い」という指摘が出ている。

 公的年金は受給開始時点で、本人の請求に基づいて金額の裁定が行われる。その際に社会保険事務所の窓口などで、本人が申請した加入歴に漏れがないかを確認することになっている。

 ところが、転職を繰り返した人などの場合、若いころ短期間働いた職歴について本人が請求を忘れる例があり、本来は合算すべき保険料納付記録を社保庁が見つけ出せないことが多い。

 社保庁は1997年から加入者ごとに基礎年金番号を付け、支給漏れを防ごうとしている。だが、それ以前は転職のたびに別の年金手帳が発行されていた例などが多く、社保庁による基礎年金番号への名寄せ作業もはかどっていない。紙に手書きしていた古い加入記録をコンピューターに入力し直す際、氏名などを誤って入力した例もある。

 さらに、窓口の対応が不親切で、加入者の請求をうのみにし、よく調べないこともある。社保庁は「年金は請求に基づいて、本人が納得した上で支払っている」(運営部企画課)と釈明しているが、こうした給付業務のずさんさが、記録を見落とす原因になっている。

 まだ支給漏れに気づかず、少ない年金を受給している人も多数にのぼると見られ、「今回の件数は氷山の一角」(埼玉県内の社会保険労務士)と指摘されている。

 年金額が訂正されると、過去5年間の不足分は一時金で支払われるが、それ以前の分は時効となる。時効も多数生じている模様だ。

「ずさん給付」他にも可能性

 厚生年金と基礎年金(国民年金)に大量の支給漏れが見つかった問題は、公的年金に対する国民の信頼を大きく損ないかねない。背景に社保庁によるお粗末な記録管理と窓口業務の不親切さがあるだけに、「これから全受給者の年金額を社保庁がチェックし直すのは不可能」という社保庁の言い分に国民の理解を得ることは難しいだろう。

 政府は2008年度から「ねんきん定期便」を本格実施し、過去の保険料納付実績などを加入者に毎年通知する方針。

 だが、すでに受給が始まっている60歳以上の人は、対象外。自分で社会保険事務所の窓口に出向くなどして加入歴を再確認しない限り、支給漏れを発見できる可能性はほとんどない。

 今回明らかになった以外にも、支給漏れは多数起きている可能性が高い。社保庁は早急に調査するとともに、高齢者に加入歴の再確認を強く呼びかけるべきだ。(社会保障部 石崎浩)

http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/mnews/20070330mh06.htm