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2007年03月30日(金) 00時00分

犬とかかわり38年、県職員定年。朝日新聞

 捨て犬や野良犬をひき取る秋田市浜田の県動物管理センターの技能主任保坂繁さん(60)が30日、定年退職する。「致死処分」にかかわった犬は38年間で8万5千匹余り。やりきれない気持ちを抱えながら各地で犬のしつけ方教室を開き、犬と触れあう楽しさも伝えてきた。「無駄な命はない」と、定年後も教室は続けるつもりだ。(今野忍)

 秋田市で生まれ、物心がついたときから身近に犬がいた。魚屋だった父は冬には犬にソリを引かせ行商に出かけた。

 秋田犬のブリーダーをしている兄の仕事を手伝っていた22歳の時、兄の知人に、センターの前身の秋田保健所に就職を勧められた。野良犬の捕獲が主な仕事と聞き、「わんちゃんとかかわれるなら」と入所を決めた。

 しかし犬の「処分」も仕事だった。

 千秋公園の向かいにあったコンクリート造り約80平方メートルの犬収容施設で、大小30匹以上がすし詰め状態になっていた。その犬に獣医師が注射を次々と打つ。保坂さんの仕事はその犬を押さえることだった。

 「処分」前のぬくもり。悲しそうなまなざし。週に100匹ほど「処分」することもあった。

 「こんなつらい仕事……。やってられない」

 苦しくて何度も辞めようと思った。でも、辞めたところで、「わんちゃんの命が救われるわけではない」と思いとどまった。

 県動物管理センターが今の場所にできてからは、ガス室ができた。そのボタンを押すのが保坂さんの役目になった。

 「飼い主の人間が身勝手。わんちゃんたちは悪くない」。何年たっても割り切れなかった。

 転機は94年に訪れた。保健所が引き取った子犬の一部を訓練し、「パートナー犬」として各地で犬のしつけ方教室を開くようになった。01年にはセンターで犬をしつけ、ほしい人に譲る事業も始めた。これまでに18匹がもらわれていった。「わずかだが救える命があることは支えになった」

 保坂さんが保健所に入った当時、年間4千匹以上が「処分」されていた。05年度は970匹に減った。

 同センターの坂本尚志所長は、「処分」される犬に毎朝、優しく語りかける保坂さんを見てきた。坂本さんは「保坂さんにかかればどんな問題児の犬もなついてしまう。若い人たちが保坂さんの熱意を継いで欲しい」と願う。

 保坂さんのうわさを聞き、犬のしつけ相談に来る飼い主もいる。保坂さんは定年後も、「犬と上手につきあえる飼い主が増えて欲しい」と、出張しつけ教室を開く予定だ。

http://mytown.asahi.com/akita/news.php?k_id=05000000703300003