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2007年03月30日(金) 00時00分

【能登地震】輪島の伝統、亀裂朝日新聞

 =後継者不足に追い打ち=

 能登半島をおそった地震は、輪島市の伝統的な産業や町並みに深刻な打撃を与えた。輪島塗や酒造りで製造の拠点が被害を受け、操業停止に追い込まれるなどしている。後継者不足に悩んでいた業界には、廃業を懸念する声もある。同市門前町では、歴史的な景観を生かした町づくりの核として期待されていた県指定文化財の旧商家が壊れ、周囲の家並みも深い傷を負った。
(榊原謙、吉田海将、石木歩)

 輪島塗の漆器を製造、販売する630事業所の大半が何らかの被害を受けた。

 輪島市鳳至(ふげし)町畠田の橋田ヨシ子さん(60)は、スギやキリをお盆や飾り棚に加工し、輪島塗の木地を作る木工所を経営する。木地に漆を塗り、沈金や蒔絵(まきえ)の技法で装飾して輪島塗が完成する。

 住宅を兼ねた2階建ての作業場では地震の激しい揺れで、棚に並べていた木地が床に落ち散乱した。少しでも傷がつけば商品価値はなくなる。大量の木地を外に運び出しながら、橋田さんは「お金を捨てているのと一緒ですよ」と嘆いた。被害額は200万〜300万円になるという。

 作業場となる土蔵が多く崩れたことも作業再開への支障となっている。温度や湿度を一定に保ち、ちりやほこりのない中で塗りと乾燥を繰り返す作業には土蔵の環境が欠かせないためだ。

 輪島漆器商工業組合によると、年間生産額はバブル期の91年の180億円をピークに減少し続け、05年には72億円となり、低迷が続く。

 組合の岡垣昌典理事長は「再開まで最長で3カ月かかるところもあるだろう。このままでは産地全体の生産が滞る」と心配する。業界では高齢事業者を中心に廃業が出ることも懸念している。

 酒造会社の痛手も大きい。輪島市河井町の日吉酒造ではこの冬の最後の仕込み中に被災した。土蔵が傾き、倒壊の恐れもある。日吉謙一社長(60)は「暖冬の影響で、発酵が進みすぎないよう仕込みのタンクを氷で冷やすなど苦労した。その分、出来に自信はあったのに残念だ」と話した。

 市内に五つある酒蔵のうち、少なくとも四つで土蔵の壁が崩れたり、酒瓶が割れたりするなどの被害を受けたという。

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 震源にほど近い旧門前町黒島地区。その中心に位置する県指定文化財の「角海家(かどみけ)住宅」は、屋敷や土蔵を囲む板張りの壁や塀が大きくゆがみ、屋根が落ちかかっている。

 江戸時代に「北前船」の寄港地として栄え、角海家住宅はその当時の船問屋の建物だ。

 周囲には、南北1キロにわたって約300軒の集落が広がり、黒い瓦屋根と板壁の家並みが続く。ほぼ全戸が被害を受け、2割近くが倒壊の危険がある。

 昨年2月、旧門前町と輪島市が合併したのを期に、新市は能登観光の振興を目指して、黒島地区の町並みに注目。文化財保護法による「伝統的建造物群」としての保存を検討し始めていた。

 65歳以上の住民が6割を超す。住宅の約2割が空き家で、一人暮らしの高齢者も目立つ。被災後、東京や名古屋などにいる家族に連れられて地区を出たお年寄りも多い。

 総区長の川端一人さん(71)は「今は住めるかどうか考えるので手いっぱいだ」と話した。

http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000000703300003