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2007年03月30日(金) 00時00分

ハンターを保険で応援/静岡市朝日新聞

 人を襲ったイノシシを捕獲しようとして出動して重傷を負った静岡市の猟友会会員の男性(61)にこのほど、市が掛け金を負担した傷害保険金が支払われた。有害鳥獣の捕獲にボランティアで駆けつける猟友会のメンバーがけがをした時のため、市が導入した新制度の初適用だ。山林開発やエサ不足などのため、人里に出没するクマやイノシシは年々増加しているが、ハンターは高齢化とともに、減少する一方だ。「手弁当」の捕獲は厳しい状況に立たされている。(阪田隼人)

 1月8日午後2時すぎ、静岡市葵区富厚里で、散歩中の女性(49)がイノシシに襲われけがをした。通報を受けた男性は、現場へ駆けつけ、逃げるイノシシを5キロほど追いかけたが、イノシシは逆に男性に突進、男性の太ももやふくらはぎを鋭い牙でひっかけた。イノシシは体長125センチ、体重100キロほどもある大型。男性は2カ月の重傷を負った。

 現場は民家が並ぶ銃猟禁止区域で、簡単に銃は使えなかった。男性は左官業を営む。通院を繰り返し、1カ月以上も仕事を休まざるを得なかった。

 イノシシのほか、静岡市内の山間部ではここ数年、クマの出没数が急増している。今年度は民家付近に現れるなどしたクマ16頭が捕獲された。増加とともに、出動する地元猟友会から「動物の捕獲は命の危険をも伴う。要請を受けて出動したハンターの身に何かあった際には、誰が責任をとるのか」という不安の声が高まった。

 その結果、今年度から、市内の猟友会は新たに民間の傷害保険に加入し、その掛け金を市が負担することになった。有害鳥獣の捕獲に活動するハンター110人に対して、市は約51万円を予算に計上。ハンターには、通院1日に付き3千円が支払われる。

 元々、事故の治療費の一部は、猟友会の会費で積み立てた共済金で賄うほか、民間の保険会社に任意で加入する「ハンター保険」から支払われている。市農林総務課の担当者は「ハンター保険などは趣味活動のために入ってもらうもの。狩猟期間外でもこちらの要請を受けて捕獲してもらっているので公費負担にした」と説明する。

 捕獲数が増える一方で、危険で規制も厳しいなどの点が敬遠され、会員数は減少する一方だ。高齢化も進んでいて、県内では、狩猟中の滑落や被弾といった事故が毎年10件程度発生している。

 静岡市は活動維持のため、市内の三つの猟友会に対して年間計94万円の交付金を出している。静岡猟友会(葵区)の三浦太郎会長は「市の保険負担は貴重な一歩を踏み出した。だが、捕獲の際に使うガソリン代や弾代は、とても今の自治体からの交付金では足りない」と話す。市内では今年度(2月1日現在)66件の捕獲許可が出て、猟友会が出動している。

 県内の他の地域でも、交付金の増額を交渉している猟友会はあるが、財政難を理由に実現されないケースもある。ある猟友会の支部長は「財政が苦しい状況は理解しているし、ボランティア活動という立場もあるので、あまり本音を強くは言えない」と話す。

http://mytown.asahi.com/shizuoka/news.php?k_id=23000000703300005