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2007年03月30日(金) 16時06分

改革の嵐去り…知事との対決から蜜月ムード 宮城・長野朝日新聞

 「情報公開」の浅野史郎氏が東京都知事選に転じた宮城。「脱ダム宣言」で県議会と鋭く対立した田中康夫氏が昨夏の知事選で敗れた長野。2人の「改革派知事」が去った両県でも30日、県議選が告示された。両氏の後任は、くしくも同じ「村井知事」。前回とはうって変わり、議会との間に蜜月ムードが漂う中、選挙戦が始まった。有権者はどんな審判を下すのか。

■宮城 しぼむ緊張感

 「浅野さんの福祉の後継者として頑張ります」

 宮城県議選の候補者は、集まった支持者にそう言って選挙カーに乗り込んだ。告示直前までは「彼こそ適任者」と持ち上げる浅野史郎前知事の「ビデオレター」が流れていた。しかし、県選管の指示で告示後は流せない。「本来は本人が来てくれるはずだったのに」と候補者はつぶやいた。

 改革派として知られた浅野氏の人気は、県内で今も根強い。かつて知事野党としてにらみ合った県議の中にも「論戦を通じて育てられた」と訴える候補者がいるほどだ。

 浅野県政で県議らは、議会に根回しなく政策を打ち出す知事に振り回され続けた。地元の陳情も思うようにこなせない。ただ、その結果、県議会は「知事をギャフンと言わせるか、納得させる」(県議会議長経験者)丁々発止の場に。議員提案の政策条例を数多く制定する「日本一の県議会」(同)に変容を遂げた。

 その浅野氏が退任して初の県議選。前回、選挙直前に副知事人事を否決し、知事との緊張感の中で戦った雰囲気はもはやない。自民党県議から転じた村井嘉浩知事の下、「もやっとした雰囲気」(県内の市長)が漂う。

 例えば徹底ぶりで知られる同県の情報公開だが、前知事時代に比べ「後退した」と仙台市民オンブズマンは指摘する。公開される議事録で確認できた県議会各派の会議内容が、今年度からチェック出来なくなった。会議録を取らない非公式会議を多用し始めたのだ。「知事への対抗上、議会も情報公開せざるを得なかったのが必要がなくなった」とオンブズマン。

 高止まり傾向の是正が全国で最も進んでいた公共工事の「落札率」も、制度変更され上昇し始めた。前知事時代、「自分たちの生活を破壊された」と不満が強かった建設業界は歓迎ムードだ。「(浅野氏は)1兆4000億円の借金を残し、東京に行った。村井知事と共に負の遺産の処理に頑張っていく」。自民党候補者は第一声で強調した。

■長野 「大県議団」狙う

 田中康夫前知事が去った長野の県議選に前回のような熱気はない。4年前は、県議会から不信任された田中氏が出直し知事選で圧勝した7カ月後で新顔72人を含む116人が立候補した。今回の出馬表明者は約90人。

 「昨年の知事選で、ものすごいエネルギーを使った。2年続けて『祭り』はできない」。自民党と共に村井仁知事誕生を支えた連合長野の近藤光会長は解説する。

 田中人気の絶頂で迎えた前回、自民、民主両党は無党派層の影におびえ、政党色の払拭(ふっしょく)に躍起となった。民主は県連が支持する14人の氏名すら公表しなかった。そんな中、無党派層に支えられて当選した「親・田中」の無所属議員7人は、今度はほとんどが苦戦を強いられている。

 2期目を目指すある候補は、同じ「親・田中」だった共産党との調整に失敗。元の選挙区からの立候補断念に追い込まれた。21日になって隣の選挙区からの立候補を表明したが、他候補と「田中票」を奪い合う事態は避けられない。

 逆に、田中県政下で辛酸をなめてきた自民党は「大自民党県議団」の結集を虎視眈々(こしたんたん)と狙う。

 「新知事のもと、安全・安心の県土作りのために全力を尽くしたい」。自民党県連幹部で村井氏擁立に動いた現職候補は意気揚々と第一声を放った。定数58のうち、同党県議団は10人。県連幹部は「17、18人に増やす」と意気込む。

 対立してきた田中県政の6年間で、否決・修正された議案は40件以上に及ぶが、村井県政下では0。村井知事と議会は蜜月状態にある。知事は、県議選にあたり「お求めによって応援します」と知事派拡大に意欲をにじませていたが、応援を頼んできたのは8人。知事周辺は「53万票あった田中票の取り込みを考えると迂闊(うかつ)に呼べないのだろう」とみる。

http://www.asahi.com/politics/update/0330/010.html