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2007年03月30日(金) 20時41分

タイ、首相と軍の対立表面化 新たなクーデター説も朝日新聞

 4月1日で就任半年を迎えるタイのスラユット首相と、クーデターを主導したソンティ陸軍司令官を議長とする国家安全保障評議会との対立が表面化している。治安維持などを優先させたい評議会側に対し、「文民」であろうとする首相が抵抗する。軍の一部には首相への不満がくすぶるが、代役は見あたらず、不協和音解消のめどは立たない。

 首相府で29日あった首相と司令官らの会談は3時間に及び、司令官が声を荒らげる場面もあった、と地元紙は伝えている。会談に先立ち司令官は、バンコクに非常事態を宣言するよう首相に進言していた。相次ぐ反政府集会を力で抑え込むためだ。27日夜、地元紙幹部と会食した司令官は「過去に首相は私の申し出を断ったことがない」と自信を示していた。

 ところが、首相は会談の席に選挙管理委員長や立法議会議長を同席させ、非常事態宣言を「時期尚早」と明言。選挙日程を12月と決めて発表した。司令官はかねて、選挙は10月までに実施するとしており、二重にメンツをつぶされた形だ。首相府を去る司令官は苦虫をかみつぶしたような表情で、メディアの質問を無視した。

 サプラン陸軍副司令官ら評議会内の強硬派は、首相のタクシン前首相派への対応に「ソフト過ぎる」と不満を募らせていると報じられている。

 スラユット首相とソンティ司令官は、陸軍特殊戦闘部隊で上司と部下の関係だった。昨年9月のクーデター後、司令官は「退役した軍人は文民」との理屈でスラユット氏に首相就任を要請。固辞する氏を自宅に訪ねて口説き落とした。

 しかし、昨年12月、突然の外資規制で株価が暴落するなど政権側の失策が続く一方、テロが相次ぐ南部の治安改善が進まないことに首相が不満をもらすなど、一枚岩とみられた関係にも最近、揺らぎ始めていた。

 制定作業が進む憲法案で、議員でなくても首相になれる条項が検討されていることに対して、首相が26日、「民主的ではない」と明確に反対を表明した。軍が政権を直接掌握する道を閉ざす見解で、軍の一部には「軍出身の首相なのに、権益を考えない」との不満も出ていた。

 92年、軍の発砲で多くの市民が死んだ政変の事後処理をした経験からスラユット氏は、首相就任まで「軍人は政治にかかわるべきでない」と公言してきた。これが軍の政治介入には慎重な今の姿勢にもつながっている。

 地元紙のコムチャルックは30日、「首相が司令官にコントロールされているとの考えが間違いだったことがはっきりした。面目をつぶされた司令官が次のクーデターを考える可能性もある」と論評した。

http://www.asahi.com/international/update/0330/012.html