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2007年03月28日(水) 00時00分

朝刊編 最終回朝日新聞

■露天風呂で憲法とか考えたのだ

 いやだなぁ、マダムったら。 そんなに泣かないでよ。確かに朝刊の連載は終わるけど、心機一転の春、出会いや別れは付きものさ。てなわけで、この春から挑戦しているブロニカの中判カメラ(露出もマニュアルのクラシックカメラ)を助手席に乗せて、おいら、まだ雪深い某所へと車を走らせたのです。

 そう言えば、最近は政治的なこと書いてなかったなぁ。選挙期間中なので、よけい書きにくい空気なんだけど、はるみんの「米チェン」ってCM。あれ、いろんな意味でひどかったね。

 そもそも、道内のほとんどの地域では普通に道内米を食べているわけだから、道外米に米チェンしろってことなのかよ!

 あれって、ふだんから道内米を食べていない側の人間の発想じゃん。「もっと北海道を旅行しましょう」みたいなCMも同様。差別意識を持つ人間ほど「差別をなくしましょう」って言うのと同じ原理なりね。

 お。いい感じの風景になったぞよ。ブロニカの出番なり。カシャ、グルッ、グルッ、カシャッ。ふひゅう。手巻きの感触といい、重量感あるシャッター音といい、たまらなくいいねぇ。

 あれ。もうフィルム切れ。くぅーっ、デジカメの200コマ撮りに慣れている身には新鮮だぜぇ。温泉にでも入ろっと。

 てなわけで30分後。近くにある秘密の露天風呂に貸し切り状態で入っていたのでした。

 ふぅーっ。大人に生まれてよかったぁ。平日の日中に青空の下で露天風呂。これぞ大人の愉(たの)しみなり。もっとも、世の中、大人じゃない人が多いけどね。

 たとえば高速道路。80キロ制限だけど、制限速度で走ってる車なんてほとんどないでしょ。

 朝、新千歳空港に向かう時なんか、左車線なのに全員130キロで走ってたことあるもんね。

 でも、捕まったらスピード違反。それが大人の現実なのだ。

 憲法9条を変えようって言ってる人は、法定速度が現実と合ってないから、高速道路の制限速度を100キロにしよう、と言ってるのと同じなんよ。

 人間は80キロ制限でも100キロ以上で走る生き物なんだから、制限速度を100キロにしたって、実際はそれ以上のスピードでみんな走るし、取り締まるオービスの設定も100キロにはできない。それが現実。

 憲法9条があっても日本には軍隊がある。それも現実。

 でも、憲法9条が非戦の理想を掲げているから、自衛隊が罪もないイスラム人を殺すことを日本人は絶対認めない。理想という歯止めは、少しずれて現実にブレーキをかけるものなり。

 憲法9条を現実に合わせて後退させたら、現実はもっと暴走することぐらいわかれよなぁ。

 太田光や湯川秀樹の全世界非核非武装論の方が「現実的な理想」に思えちゃうんよ、おれ。

 ちなみに、ブロニカくん。左右が逆に見えるのだ。永田町でこそ使いたいカメラだね。てなところで、お別れ。バイビー。

(北海道いい旅研究室編集長 舘浦 海豹)

<筆者紹介>
 舘浦 海豹(たてうら あざらし) エッセイスト。旅と温泉の本「北海道いい旅研究室」編集長。道内各地を足で回った温泉への豊富な知識と、正直で辛口の批評が人気。小樽出身。43歳。

http://mytown.asahi.com/hokkaido/news.php?k_id=01000160703280001