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2007年03月26日(月) 03時33分

すき間50センチ、女性生還 余震おびえ 能登地震朝日新聞

 震度6強の強い地震が25日午前、石川県の能登半島を襲った。道路は陥没し、家が倒れ、品物が崩れ落ちた。「こんな揺れは初めてだ」「心臓が止まるかと思った」。大きな地震の経験があまりない住民は驚いた。被害が大きかった輪島市では、がれきと化した家からお年寄りが奇跡的に救助された。断水や停電が相次ぐなど、ライフラインも大きな影響を受けた。高齢化、過疎化が進む地域も少なくない。余震が続くなか、人々は不安な時間を避難所で過ごした。

余震が続くなか、大勢の住民が集会所に避難した=25日午後6時25分、石川県輪島市門前町鹿磯で

 輪島市市街地の道路はあちこちが陥没し、切れた電線が垂れ下がっていた。直径1メートルほどの岩も道に転がっている。

 午前11時前、市中心部の倒壊した家屋の下から小西美代さん(76)が救出された。

 「後ろを振り向いたら、家ががれきになっていて驚いた」。夫で紳士服店経営の昭策さん(80)は、地震発生直後の様子をこう振り返る。揺れが始まった時、自宅と奥の蔵をつなぐ廊下にいた。築100年ほどの木造2階建ての店舗兼住宅が倒壊。美代さんが生き埋めになった。

 美代さんが1階の台所で食事の用意をした後、8畳の茶の間で横になろうとした時、グラグラと揺れた。倒れてきた茶棚の50センチほどのすき間に、偶然体が入り込んで助かったらしい。

 近所の住民が見守るなか、消防関係者によってがれきがどけられていく。「大丈夫か」。息子で会社員の隆久さん(45)が何度も声をかけたが、応答がない。

 「助けて」。美代さんの声が、がれきの間から漏れたのは約1時間後だった。

 収容先の市立輪島病院で美代さんは「待っている間、時間が非常に長く、心細かった。地震は怖い」と話した。同病院には夕方までに、負傷者約60人が運ばれてきた。やけどや骨折、切り傷が多く、10人が入院した。

 夜になっても数千世帯で断水が続き、住民らが集まり、水の心配をする姿があちこちで見られた。独り暮らしの女性(73)は「市役所から連絡や案内がない」と不安そうに話した。

 ●高齢化進む山あい集落、山道2キロおぶさり避難

 輪島市内でも、特に被害が目立つ門前町は、山あいの川に沿って集落が点在する。06年2月に輪島市と合併した。

 「食器は全部落ち、テレビもひっくり返った。すごい音がして心臓が止まるかと思った」。「国民宿舎能登つるぎぢ荘」の管理人、小坂清美さん(62)は揺れの様子を、おびえたように語った。

 午後6時ごろ、同荘には土砂崩れで孤立状態にあった近くの大釜地区の4世帯8人が避難し、石油ストーブで暖を取った。みな60〜70代。1日がかりの避難に疲れ切った表情を浮かべた。余震で建物がみしみし揺れると、お年寄りらは不安そうに天井を見上げ、「今ので家もつぶれたかも知れん」とうなだれた。

 山深い谷筋に数軒の民家が身を寄せ合う同地区は、全戸で屋根が傾いたり、瓦が落ちたりした。電線は切れ、電話も不通に。区長の宮坂一雄さん(65)の指示で車と徒歩で約2キロの山道を下りた。足の悪い高齢者は、みんなでおぶって歩いた。

 若い世代は金沢市などで暮らす。宮坂さんは「慣れ親しんだところだが、家に住めなければ地区を出るしかない」と話し、明日以降は親類の家に避難するという。

 輪島市門前総合支所によると、同町では道路の寸断で深見地区で36世帯89人、六郎木(ろくろぎ)地区で9世帯17人、大釜地区で5世帯11人が一時孤立した。

 深見と六郎木の住民は同市が用意した船で深見漁港から鹿磯(かいそ)漁港へ脱出。浦上地区の住人は土砂崩れの土砂がなくなったあと、それぞれ脱出した。

 同支所から歩いて5分の市門前会館。夕方から毛布や衣類を抱えた被災者たちが続々集まってきた。2階の和室には40人以上のお年寄りらが集まり、入りきらない被災者たちは3階の広間に。

 木島峯子さん(76)は、毛布にくるまって横になった夫の龍雄さん(88)の隣で、運び込んだ衣類を片づけていた。2人暮らし。地元のお祭りに出かけようとする矢先の地震だった。

 息子2人は東京と大阪で暮らす。峯子さんは「行く所がなくなる。家は手が付けられず、誰がどうしてくれるわけでもないし」と肩を落とした。

 主婦和田しずさん(80)は夫の寅雄さん(86)と避難した。自宅は割れた食器が散乱し、タンスやげた箱までが倒れ、「足の踏み場もない」状態だ。偶然、実家に来ていた娘夫婦の助けを借りて、毛布や衣類、乾パンなどを運び出した。

 今後の暮らしが気にかかる。娘夫婦は共働きであてにはできない。「若い人が家におらず、どこから手を付けていいのか。年金でやっと生活してるのに、これからどうするね」。余震ごとに寅雄さんの手を握り、こぼした。

 支所近くの興禅寺は全壊した。「断水のため、水が足りなくなっています。水洗トイレは使用しないでください」。午後8時過ぎ、同支所が有線放送で節水を呼びかけた。同町のほぼ全域で断水が続く。金沢市は2台ある給水車を当初、七尾市の病院などに投入したが、夜になって門前町に最新の4トン車を移動させた。

http://www.asahi.com/national/update/0326/TKY200703250320.html