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2007年03月26日(月) 00時00分

かすむ脱ダム/県議選朝日新聞

 ダム建設を求める声の「水位」が高まっている。村井仁知事が、長野市・浅川に治水専用の「穴あきダム」を建設する脱「脱ダム」を宣言したのを受け、他の河川でも建設復活の動きが出始めた。田中康夫前知事が県政の舞台から去ったいま、県議選で「ダムの是非」が明確な争点に浮上する気配はない。(久保智)

 「角間ダムは穴あきじゃ困る」

 3期12年務めた山ノ内町長を4日に退任したばかりの中山茂樹さん(73)が語気を強める。

 村井知事の脱「脱ダム」宣言表明から6日後の2月14日。中山さんらは原悟志・県土木部長を訪ね、同町の角間川の治水利水対策は「ダム建設のほかに有効な方法がない」と訴えた。原部長は「ダムを含めて検討します」と答えたという。

 81年から事業が始まった「角間ダム」は高さ70メートル、総貯水量261万トン、総事業費250億円。水没する道路を付け替える設計まで完了したが、田中前知事の「脱ダム」宣言により03年、建設中止が決定した。

 中山前町長は、県の脱「脱ダム」方針を歓迎しつつも、物足りなさを感じる。「ダムも含めて考える、なんて誰でも言える。批判を恐れて『いい子』をしてては物事は進まない」

 16歳だった50年夏、角間川の堤防が決壊、死亡した6人のうち4人は親族だった。「洪水の怖さを知るからこそ、いい加減な治水対策は許さない」

 治水だけでなく、利水もできる多目的ダムの建設を求めるのは、隣接する中野市の水需要に応えるためだ。温泉地が近い同市では、主な水源とする地下水から自然界に存在するヒ素や硝酸が検出されるなど不安を抱える。担当者は「安全で安定した水が欲しい」と話す。

 ●71歳出馬決意

 公約は「脱ダム宣言をつらぬきます」。ルポライターの内山卓郎氏(71)が県議選長野市区から立候補を決意したのは1月。「ズルズルとダム建設に向かうのを黙って見過ごすわけにはいかない」と覚悟を決めた。

 浅川ダム予定地に近い地附山で26人が死亡した85年の地すべり災害で、自宅が被災。それ以来、ダムは地すべりの危険性を増すとして反対運動を先導してきた。

 「地すべり災害の二の舞いはゴメンだ」「穴あきダムでは水害防止に逆効果」。内向的でシャイと自認する内山氏だが、目立つライトグリーンのジャンパー姿でのぼりを持ち、連日、JR長野駅前で切々と訴える。

 ●横の連携なし

 長野市区で明確に「ダム反対」を打ち出すのは、内山氏だけではない。昨夏の知事選で田中前知事を支援した新顔の田幸さよ子氏(55)、共産党が擁立する現職の石坂千穂氏(58)と新顔の和田明子氏(47)。

 だが、各候補が連携して、ダムを争点に押し上げるような動きはみえない。

 内山氏も所属し、ダム建設に反対する市民団体「浅川・千曲川等治水対策会議」は、県議選で会として動くことはせず、個人個人で対応することを申し合わせた。あるメンバーは「特定の人を支援すれば会が分裂する」と明かす。

 ●賛成をぼかす

 一方、「ダム賛成」を積極的に掲げようとする候補者も見あたらない。

 「ダムに反対か賛成かという構図になるのを恐れている」。ある陣営の幹部はそう話す。賛成を明確にすれば、公共事業に批判的な浮動票を失う。逆に反対だと言えば、建設を望む流域住民や業界団体などの反発を食らうというわけだ。

 内山氏は「火中の栗に手を出さず、当たらずさわらずという雰囲気を感じる」と選挙区の「空気」にいらだつ。「これだけ具体的な政策課題に態度を明確にしないのは、ずるい」

http://mytown.asahi.com/nagano/news.php?k_id=21000000703260003