記事登録
2007年03月26日(月) 00時00分

被災地の夢 実る農園朝日新聞

 04年秋の台風23号で近くの1級河川、出石川が決壊し、壊滅的な被害を受けた豊岡市出石町の鳥居地区で25日、地元農家らが設立を計画し、災害で一度は断念した市民農園が開園した。濁流で家を流され、開園をあきらめた地元の人たちを勇気づけたのは、阪神大震災の被災地・神戸から2年5カ月にわたり通い続けたボランティアたちだった。(古田大輔)

 04年10月20日、決壊した出石川の濁流に襲われ、同地区では1人が死亡、約100戸の8割が全半壊した。農園体験の場所として、地元農家42戸が国などの補助を受けて着工していた農園予定地も2メートル浸水し、荒れ地と化した。

 被災直後には、県内外から多くのボランティアが駆けつけ、泥だらけになった家財道具を片づけた。神戸市長田区を拠点として活動している市民団体「まち・コミュニケーション」(まち・コミ)の人たちもいた。

 その1人、長田区の団体職員藤原柄彦さん(51)は、農園管理組合副組合長の広井昌利さん(65)が農園予定地に立ちつくし、「もうダメだ」とつぶやいていた姿を覚えている。藤原さんは「震災のときには、全国の人たちから助けてもらった。今度は、自分たちに何ができるか考えた」と振り返る。

 災害の後かたづけが一段落し、ボランティアのほとんどが引き上げた05年2月、まち・コミのメンバーは広井さんとともに、予定地の一角を耕し、野菜の栽培を始めた。片道2時間半かけて、毎週日曜日に4、5人が神戸市から訪れた。

 最初は農園設立をあきらめていた鳥居の人たちも、災害から半年たっても神戸からやって来てくれる人たちの姿に、工事再開を決意した。

 開園した農園は、一区画50平方メートルで117区画。利用料は、一区画で年間1万5千円。地元農家から栽培の指導を受けることもできる。すでに53区画の利用申し込みが入っている。

 藤原さんの鳥居通いは、この日までに100回を優に超えている。「僕たちの力なんて本当に小さい。けれど、暗い顔をしていた人たちが、少しずつ笑いかけてくれるようになってくれた。そのことがうれしい」と話す。

 台風災害から2年5カ月。広井さんは「まち・コミの人たちが楽しそうに農作業をする姿にみんなが励まされた。台風で何もかも流されたけれど、新しい出会いがあった」と笑った。

http://mytown.asahi.com/hyogo/news.php?k_id=29000000703260001