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2007年03月25日(日) 17時07分

「モノ言う被告」健在 村上ファンド公判、ヤマ場に朝日新聞

 法廷で自ら証人にガンガン質問をぶつける多弁な被告——。インサイダー取引の起訴事実を全面否認した村上ファンド前代表の村上世彰(よしあき)被告(47)は、弁護士顔負けの話術をいかし、自身に有利な証言を引き出してきた。一方、メールなどの証拠類や関係者の供述から立証に自信を持つ検察側は、この攻勢にも動じる気配を見せない。次回27日の公判からは被告人質問が始まり、公判は最大のヤマ場を迎える。

 「ご自身が大変なときに、すいません」

 今月20日、東京地裁の104号法廷。4日前に同じ法廷で実刑判決を受けたばかりのライブドア前社長、堀江貴文被告(34)が証人として出廷すると、村上前代表はこう切り出した。ただ、柔らかな物腰はあいさつまでで、核心部分では語気を強めた。

 「堀江さんがニッポン放送株5%以上を買う決定をしたのはいつですか」

 「決定?」

 「そうです」

 「確信ができたのは(実際に買い占めた05年2月の)直前」

 04年11月8日の会議で、前代表がライブドア側からニッポン放送株を大量取得する計画を聞いたという検察側の主張。それを打ち消すかのような証言を、ライブドアの最高責任者から引き出した。

 前代表が自ら質問に立つ際、当初は弁護人がいちいち裁判長に許可を求めていた。だが、公判が回数を重ねるうち、裁判長が「いいですか」と、前代表に質問するかどうかの意思確認を求めるまでになった。

 ライブドア元代表取締役の熊谷史人被告(29)も、一連のライブドア側証人のなかで、最も弁護側主張に沿った証言をした。「04年11月の段階で、社内でニッポン放送株大量取得の現実的な動きはなかった」

 前代表の切り込みが一段と厳しかったのは、昨年12月19日の公判。検察側がその証言を立証の柱に据えている前取締役の宮内亮治被告(39)と直接対決したときだった。

 「04年11月の会議で、ライブドアが本気で買い集めると、私が受け止めたと思いましたか」

 「思いません」と宮内前取締役。少しひるんだような声だった。

 しかし、前代表に有利な証言が続出しても、検察側に焦った様子はあまり見られない。

 前代表の追及に宮内前取締役が一瞬ひるんだ直後、検察官が前取締役に質問を投げかけた。ライブドアが外資系金融機関に依頼して進めた資金準備や、ニッポン放送株の3分の1取得方針を前代表に伝えていたことについて、ひとつひとつ冷静に確認していった。

 検察側の落ち着き払った態度にも根拠がある。これまでの公判で、宮内前取締役を含む複数のライブドア元幹部が、前代表に「200億円を借り入れできる」などと伝えた04年11月の会議の場面を法廷で詳述。株取得の実務を担当したライブドア子会社幹部も、事前に村上ファンド側と面談やメールでやり取りし、具体的な資金調達方法を伝えたと証言し、検察側の主張を強く裏づけたからだ。

 今月13日の公判で、検察側は攻勢に出た。村上ファンド側が04年7月、ライブドア株を借り受けて、株式分割の前後の売買で約2億円の利益を得ていたことを暴露し、両者の親密さを強調することに成功した。

 27日からの被告人質問では、前代表がまず弁護側の質問に答える。その後、検察側が前代表と火花を散らすことになる。

http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY200703240361.html