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2007年03月24日(土) 00時00分

(上)限界ショック 資料なく事実迫れず朝日新聞

 「調査中で……」。東京電力の担当者は、22日に県庁で開いた記者会見で、こう繰り返した。

 東電は同日、福島第一原発3号機(大熊町)で78年、5本の制御棒が脱落し、臨界状態になった可能性がある、と発表した。だが、詳しい経緯について、同社のOBも含めた社内関係者への聞き取りなどを実施している最中。当時、同原発の中央司令室には11人の社員がいた。このうち、聞き取り調査ができた中には「(トラブルの)記憶はない」と答える人もいるという。事実に迫れない状況が続いている。

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 残された資料も限られている。運転データの保管期限は10年とされ、請負などの契約書類はさらに保管期間が短い。臨界状態を示す警報の発生の有無や、建物内にいた作業員数などは依然不明のままだ。

 トラブルがあった78年11月2日の当直長の引き継ぎ日誌には、当日の試験の様子などは記入されている。だが、「中性子量が上昇した」「制御棒が脱落した」といった記載はない。

 また、3号機で制御棒が抜け落ちた後、2年以内に5号機、2号機で制御棒の脱落があった。東電では「当時、発電所内で周知したとの証言はあるが、他の発電所にも周知されたという証言はない」とするにとどめている。作業員が被曝(ひ・ばく)した可能性などについては「当時、圧力容器のフタが閉まっていたため、可能性は低い。局所的な臨界であれば蒸気が出るほどの温度上昇はなかったと思われる」と否定する。

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 「制御棒という最重要設備の予期せぬトラブルなので、旧科技庁だけでなく、県にも報告があってしかるべき事案だ」

 県の二瓶辰右エ門・県民安全領域総括参事はこうした東電の姿勢を批判する。

 今回のトラブルについて、県が報告を受けたのは同日午後3時半ごろだった。「制御棒が抜け落ちており臨界に達している可能性がある」。県庁8階の県原子力安全グループで、東電の担当者が説明した。応対した同グループの参事は「徹底的に調査して過去の問題を払拭(ふっ・しょく)してもらわないと困りますよ」と全容解明を求めた。

 20日に福島第二原発3号機でのトラブルが発覚したばかり。昨年末に温排水データが改ざんされていた問題が発覚してから「トラブルがどんどん重大になっている。被爆など、もっとひどい事案があるのでは、と考えてしまう」と二瓶総括参事は危機感を募らせる。

 トラブルは、いずれも定期検査中、制御棒駆動装置を操作する際に起きた。県では「当時の試験手順に共通する問題があった可能性がある。情報共有していれば防ぐことが出来た」とする。

 ただ、県では「今現在の緊急課題ではなく、30年前の話だ」として、独自の調査を行う予定はないという。だが、二瓶総括参事は「すべてのウミを出し切れるのか非常に心配」という。「県としても、情報公開のあり方などを含めた要求事項を新たにまとめる可能性はある」と話した。
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 臨界事故が起こっていた可能性があるとする福島第一原発3号機のトラブルは、県内に大きなショックを与えている。東電への信頼が崩壊しつつある中、県や地元自治体の反応を取材した。

 −第一原発所長 地元で陳謝「調査進める」−

 東京電力の福島第一原発3号機(大熊町)で78年、定期点検中に制御棒が脱落して臨界状態となった可能性が高いとされる問題で、同原発の大出厚所長が23日、大熊町であった県原発安全確保連絡会議に出席し、「地元の皆さんに大変なご心配とご迷惑をおかけし、深くおわび申し上げる」と陳謝した。さらに「引き続き詳しく調査を進めている」と述べ、東電側が今回の経緯について説明した。

 同会議は原発がある双葉郡4町と隣接の3市町からなり、3カ月ごとに原発周囲の大気や海水などに放射性物質が混じっていないかなど、県から測定結果の報告を受けている。本来なら東電側は出席しないが、この日は東電から出席の打診があったという。

http://mytown.asahi.com/fukushima/news.php?k_id=07000000703240005