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2007年03月24日(土) 00時00分

ドンキ連続放火、無期懲役判決朝日新聞

◇遺族 癒えぬ悲しみ

 どんな判決が出ようと3人は帰ってこない——。ドン・キホーテなどの連続放火事件で、渡辺ノリ子被告(49)にさいたま地裁は無期懲役を言い渡した。最後まで被告の口から遺族への謝罪が聞かれることはなく、厳刑を望んできた遺族は、癒えることのない悲しみを語った。

◇「今も身裂かれるよう」

 浦和花月店の従業員だった大島守雄さん(当時39)の妹礼江(あやえ)さん(38)は、この日の朝、「判決だね。一緒に行こう」と遺影の兄に語りかけ、家を出た。

 遺族はそれぞれの遺影を胸に抱き、まっすぐ前を向いて判決を聴いた。出火時の状況や3人が消火活動をしようとした様子が読み上げられると、すすり泣く声が響いた。

 同店契約社員の小石舞さん(当時20)は16歳の時から家計を支え、成人式を目前に亡くなった。大島さんは、ラーメン店を開くために修業を始める矢先だった。同店アルバイトの関口舞子さん(当時19)は大学で福祉を学び、将来、福祉関係の仕事に就くことを夢みていた。

 判決後、礼江さんは「今も身を裂かれるような思いで、この苦しみはずっと続く」と、涙で声を詰まらせた。公判中、謝罪の言葉を口にしなかった渡辺被告に対し「謝罪されても許す気はない。もっと厳しい処罰を下すべきだ」と怒りをあらわにした。

 関口さんの父広昭さん(51)も「どんな判決が出ても娘たちはかえってこない」といい、「放火で人命が失われても殺意を問うのが難しい現状がある」として厳罰化を求める署名活動を昨年末から始めたことを明らかにした。

◇状況証拠での立証認定

 判決言い渡しは約2時間45分に及んだ。

 主な争点は、3人が死亡した火災を含む量販店7件の放火で(1)被告が火をつけたのか(2)店の商品を万引きしたのかだった。いずれも、火がつけられる瞬間を誰も見ていないなど直接証拠が乏しい中、被告は公判で放火を一貫して否認した。

 判決は、火災が起きる前後の店内で、被告と似た女を見たとする客らの証言や防犯カメラの映像など状況証拠を積み重ねた検察の立証を認めた。捜査段階の自白調書にも任意性があるとし、状況証拠と合わせて被告が放火したと判断。「元交際相手に会えないうっぷんを晴らそうとした動機や経緯は了解可能」と責任能力も認めた。

 判決はまた、従業員3人が死亡した「ドン・キホーテ浦和花月店」が商品を圧縮陳列し、さらに防火態勢に不備があったことが大火災の一因になったと指摘。しかし「被告の責任を軽減するものではない」と断じた。

 この日、被告は青いトレーナーとジャージー姿で入廷。手指や額の髪をいじるしぐさを繰り返し、時折、ゆっくりと頭を巡らせて検察官や弁護士を見ることもあった。

 裁判長は最後に「生きて罪を償ってほしいと意見陳述した遺族の思いもくんで、心から反省を深めることを願う」と話しかけたが、被告は身じろぎせず聞き、傍聴席を見渡して法廷を後にした。

◇判決後弁護人に「火つけてない」渡辺被告控訴

判決後、渡辺被告の弁護人の村木一郎弁護士は会見し、「こちらの主張がすべて排斥されてとても残念」と述べた。判決後の接見で、被告は「火をつけていないのに、つけたと言われて納得できない」と述べたといい、即日控訴した。

◇「防災万全期す」ドン・キ・ホーテ

 判決を受けて、ドン・キホーテ(東京都新宿区)は「何の罪もない3人の命が奪われ、遺族の心情を察すると判決は納得いかない。会社としては、従業員を守りきれなかった責任を認識し、防災対策に万全を期して悲惨な火災事故が起きないよう一丸となって取り組む」とするコメントを出した。

http://mytown.asahi.com/saitama/news.php?k_id=11000000703240001