記事登録
2007年03月24日(土) 00時00分

政の温もり 地域防犯の現場では朝日新聞

●犯罪39%増

 「交番を一つ造るとなると、警察官は2人1組で3交代勤務なので、最低でも6人の増員が必要」「交番新設の要望は多いんですよ」

 そんな説明を耳にする度に後藤勇さん(80)=野田市花井=は思った。「犯罪は増えているのに、新設はなかなか厳しいのか。しかし、あきらめることはできない」

 00年、同市南部地域の自治会連合会長だった後藤さんは、隣接する自治会連合会長や小中学校のPTA会長とともに、県警に、交番の新設を要望した。その後、機会がある度に、野田署に申し入れ、野田市にも尽力してくれるよう求めた。

 その間、全国的な犯罪急増の波は、野田をものみ込んでいった。95年に2552件だった市内の刑法犯認知件数(旧関宿町を含む)は、02年には39%増の3535件に増えた。

 さらに03年には、南部地域にある新興住宅地のスーパー駐車場から、約6600万円の現金が、現金自動出入機(ATM)ごと盗まれた。

●要望100カ所

 それでも、交番新設の動きは進まなかった。

 県警に寄せられている交番新設の要望は、約100カ所。01年度からの7年間で、県警の警察官は1691人増える見込みだ。だが、交番を新設して配属するよりも、「(警察官が不在の)空き交番の解消などをまず優先させた」(地域課)という。

 ここ数年は交番も年に1カ所ずつ新設されるようになったが、「建設費など予算が伴い、県の財政が厳しい折、簡単に増やすことはできない」(同)のが実情だ。

 設置要望の声の高まりを受け、知恵を絞ったのが、野田市だった。「交番のような施設を市独自で造れないか」。05年から検討を始め、県警とも協議を重ねた。根本崇市長は「県警だけでなく、市民や市役所も一緒になって対応できる策を考えた方がよかったから」と理由を語る。

 06年10月、同市みずき1丁目に「まめばん」が開所した。正式名称は「安全安心ステーション」。交番のような平屋建ての建物に、警察官OB8人の防犯推進員が交代で勤務する。通常の交番や警察官のように、捜査や取り締まりはできないが、午後2〜11時の間、警察と連携を図りながら、防犯パトロールをしたり、建物内で相談に応じたりする。

 「『夜、蛍光灯がついているだけでも安心する』って言われます」と防犯推進員は言う。

 「市もなかなかやるもんだ。交番ではないけれど、我々の要望に応えてくれた」。後藤さんは舌を巻いた。一方で、県や県警に対する距離感は縮まらない。

●本物仕立て

 「県財政の厳しさや警察官の人員不足は分かる。でもね……。それに、県がこの東葛地域で何かしているという実感はあまりないし」

 「まめばん」は受付カウンターや休憩室、給湯施設もある。「交番の基準を満たすように造ったのがミソ」と市担当者は明かす。いずれ県警の交番新設が認められたら、市は「まめばん」をそのまま使ってもらうつもりだ。(本田大次郎)

http://mytown.asahi.com/chiba/news.php?k_id=12000000703240003