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2007年03月24日(土) 14時07分

試される自浄能力 「あるある」調査委報告朝日新聞

 生活情報バラエティー番組が内包していた「危うさ」など、「発掘!あるある大事典」調査委員会が23日発表した報告は同番組の制作手法を批判する一方、テレビ的表現の不適切さを判断する難しさもにじませた。信頼回復に向けた具体的な取り組みは関西テレビにゆだねられたが、テレビ界全体の自浄能力が試されてもいる。

番組受発注の関係

■「捏造」認定に限界も

 「5000時間を超える調査で分かったのは、放送人の当事者意識の欠如。社会的には通用しない」

 捏造(ねつぞう)の原因究明から、再生の提言まで、150ページあまりの報告書をまとめた同調査委員会の熊●勝彦委員長は会見で、そう強調した。

 今回の調査委を関係者のひとりは「あるある特捜部」と表現する。7週間に及ぶ調査の実動部隊となったのは、元東京地検特捜部長である熊●氏の意向で調査委員会に設けられた弁護士18人からなる小委員会。取り仕切ったのは、熊●氏と同じ検察官出身の弁護士たちだった。熊●氏が第三者性の確保と調査の厳密さにこだわり、捜査的な手法で調査を進めた。

 小委員会は「本件の納豆ダイエット」「他の捏造事案」「再発防止策」など数班に分かれ、制作関係者や、番組に登場した研究者らに聞き取り調査を続けた。

 だが、ヒアリングも資料の提出も任意の調査では、必ずしも思惑通りには進まない面もあった。熊●氏は会見で「ブツは事件を語ると言う。捜査令状があれば簡単だが、そうはいかなかった」と歯がゆさものぞかせた。

 ある関係者は「一貫した否認を突き崩すだけの証拠を突きつけられないものは、はずさざるを得なかった」と任意調査の限界を明かす。

 テレビ界の常識も、時に「捜査的」な調査の障壁になった。ある関係者は「テレビの世界では0を1にするのはまずいが、1を7にするのは演出だという考えだ。作り手と視聴者のギャップは大きい。これをどう整理するかが問題だった」。

 「捏造」「不適切表現」「過剰演出」など、その程度によって段階的に整理することも検討したが断念。報告書では「客観的な指標は今日の放送界に存在しない」との表現となった。

 総務省が注視する「放送法3条の2への抵触」にあたるかも検討。放送責任を負うのは関西テレビだが、番組制作は日本テレワークなどに丸投げされ、捏造していたとの認識がないことから、明確な放送法違反とは言えないと判断した。

 委員の一人は「判断基準を示すのは難しい。常識的な感覚に沿ってありのまま書こうというところに落ち着いた」と言う。

■「現場の自由」確保がカギ

 今回の報告に盛り込まれた再発防止策について、調査委員の一人は「一見、地味にみえるかもしれないが、実行されれば必ず制作現場は変わる」と語っていた。

 重視したのは、番組制作に携わる者が自由な雰囲気の中で自己の良識に従って制作活動に専念できるような「内部的自由」が保たれた組織になるためのしくみ作りだ。

 「あるある」の制作にかかわった制作会社のあるスタッフは取材に対し、「日本テレワークの幹部が現場を仕切り、だれも逆らえない感じだった。関西テレビのプロデューサーは若いうえ、2〜3年で異動するので、発言権がない」と話した。「あるある」はもともと日本テレワークの企画。96年の放送開始以来の関テレのプロデューサーは9人を数えたという事情もある。報告書は、日本テレワークが、どの制作会社に再委託するかといった人事権や予算権を握っていたと指摘している。

 こうしたことから、再発防止策では、番組の企画や制作過程・放送結果などについて会社側の措置に異論がある場合には、制作担当者の意見を内外に公表する権利を確保し、それによって不利益も受けないという「制作担当者の発言の場の確保」や内部通報制度の確立を、番組の正確性確保のチェックフローの作成として提案した。

 また、「制作会社との公正な契約の締結」として、放送局が独占しがちだった番組コンテンツに関する諸権利を制作会社と分かち合うことなどを求めた。制作開始時に制作費の一定割合を制作会社に支払うなど、番組に合わせた支払い体制の確立も打ち出した。

 ほかに調査委員会は「提言」を掲げ、視聴者からの苦情を受け、制作者の良心擁護も役割とする「放送活性化委員会(仮称)」の設置を求めた。

■行政の介入、強まる恐れ

 調査委員会の報告を受けて記者会見した菅総務相は「放送事業者自らの調査では、自浄作用が働かないことが明らかになった」とも述べ、当初の関西テレビの対応に強い疑問を呈した。

 総務省は、すでに新たな行政処分制度を今国会へ提出を予定する放送法改正案の中に盛り込んでいる。放送局が捏造を認めた場合、総務相が再発防止計画を求め、意見をつけて公表する。運用次第では番組内容への口出しにつながりかねない行政権限の拡大だ。関テレの問題事例が膨れ上がったことで、規制強化の動きを勢いづかせる可能性もある。

 そもそも、こうした介入の口実になったのが、関テレや日本民間放送連盟などの対応に「鈍さがある」(総務省幹部)と見られたことだった。

 関テレの2月7日の報告書は「自社の責任問題などがはっきりしない」として総務省から突き返された。民放連も、2月15日に関テレの会員活動停止処分を下しただけで、第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」による独自の再発防止策をまとめたのは3月に入ってから。自民党からは「総務省のチェックが必要だ」などの声が目立つようになった。

 危機感を募らせた民放関係者は急きょ、自民党に「まずは我々の自主的な取り組みに任せてほしい」と頼んで回った。結局、新たな行政処分は「施行の当面凍結」まで押し返し、民放関係者は「何とか首の皮一枚でつながった」と話す。ただ、総務省内でさえ「従来の放送行政では考えられない強権」とささやかれる新制度の本質は変わらない。法改正されれば、政治の判断次第でいつでも「凍結解除」がありうる。

 ※●は崎の大が立

http://www.asahi.com/national/update/0324/TKY200703230459.html