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2007年03月23日(金) 00時00分

福祉・五輪見つめる目 春 せんきょの気分朝日新聞

 知事選を皮切りに統一地方選が始まった。夏の参院選へと続く12年に一度の選挙イヤー。街に漂う「気分」を春から夏まで追う。

◆都庁周辺

 浅野史郎候補が第一声を上げた都庁前。息子(3)を連れてパスポートを取得にきた派遣社員の女性(40)=杉並区=は、「これまでの女性に対する差別発言や私的な公費の使い方の問題で石原さんには入れたくない」と話す。「子どもを持つ女性が正社員として働ける政策」が新都知事への注文だ。

 金融関係を第1希望にして就職活動中の大学3年生の女性(21)=足立区=はいまのところ浅野候補に投票する予定。「石原都政は『都民のために』という視点が欠けている。大きなことをぶち上げるのではなく、身近に困っている人にもっと手をさしのべるべきだと思います」

 システムエンジニアの男性(30)=足立区=は「消去法で石原派」と話す。「浅野さんは宮城県でやたらと赤字をつくった人というイメージがある。東京は地方より景気はいい。それを引っ張っていけるのは石原さんぐらいだと思う」

 ただし、東京五輪には反対だ。「ハコモノはイベントが終わった後に無駄になる気がする。それよりも、中小企業支援や身近な雇用対策に力を入れてほしい」

◆築地市場

 荷を積んだ小さな三輪トラックが、人込みを行き交う築地市場。新宿区の中西秀男さん(84)は自分と孫の食材を買いに来た。黒いゴム長が似合う。10年ほど前まで魚を地方に卸す商売を営み、仕入れに通った。

 知事選では、意中の人以外の候補は知らない。ただ、話題になっている市場の移転には反対だ。「近くに移すっていうからいいと思ったけど、行き先がね。食べ物扱ってんだから、何が出てくるか分からない工場跡はまずいよ」

 苦い経験がある。54年のビキニ環礁での水爆実験で、マグロ漁船が被爆した。買っても売ることができなくなり、やむなく捨てた。

 昔は安値をつけると、10歩も歩かないうちに仲買人から「持ってけ、ばかやろー」と声がかかった。「けんか腰だけど活気があった。ここに根付いているんだから、もう少し上手に使ったらいいじゃないか」

◆横田基地

 米軍横田基地の航路下に位置する瑞穂町。1日に何度となく米軍のC130輸送機などが離着陸を繰り返す。衣料品店手伝いの女性(30)は「低空飛行の騒音や圧迫感はひどい」と話す。

 夜間はテレビの音も聞こえなくなる。都などが推進する滑走路の軍民共用化については「これ以上の騒音の増加はもうごめんですね」と否定的。しかし選挙にはあまり関心が持てない。「(行政は)やると決まったことはやるんだし、やらないと言うことはやらないんだから。なんと言ってみてもしょうがないのかな」

 一方、鉄道が走っていない武蔵村山市。軍民共用化は多摩都市モノレールの延伸につながるのではとの期待から、共用化が市の「悲願」にもなっている。日本茶専門店を営む男性(65)は「地域活性化のためには民間機が飛んでくれないと」と、強いリーダーシップを発揮できる候補に期待を寄せる。

◆豊洲

 マンションの建設で人口増が続く江東区の臨海地域・豊洲。東京五輪の施設予定地が、周辺に点在している。

 鈴木政光さん(70)は、小学生の登下校時の安全を見守る仕事を引き受けて8年目。「核家族で育つ子ばかりなので、孫のつもりで悪いと思えば遠慮なくしかります。役所にきめ細かいことは期待できない」。新旧住民の連携は自分の仕事だと思っている。

 五輪招致には賛成だ。「東京を活性化できるならいいこと」

 海に面した公園には、前後に子どものいすをつけた「ママチャリ」が並ぶ。2歳と0
歳の子を遊ばせていた主婦(27)は、「買い物場所や、子どもの医療施設は充実し、暮らしに不便は感じない」。

 先月、東京マラソンがあった日は交通規制で一日中動けなかった。「五輪になれば生活への不都合はないのでしょうか」

 別の主婦(27)は、「最寄りの地下鉄の駅にエレベーターがなく、ベビーカーでバスに乗るのも勇気がいる。公共交通機関の使いづらさはなんとかしてほしい」。

◆多摩NT

 多摩ニュータウンで最初に入居が始まり、高齢化が進む多摩市の諏訪・永山地区。商店街の空き店舗でデイケア介護事業を始めた女性(61)は、「本当に福祉のことを考えている候補者を見極めたい」と話す。

 夫が亡くなり、地域に根ざした活動をしようと、昨年5月に開所した。「例えば店舗の家賃をもっと下げるように、大家の都市再生機構と交渉してもらえれば、介護サービスの質を上げられる。これからは団塊世代の力を借りて活性化したい。その動きを応援してほしい」と期待する。

 うつ病を患い障害者年金で暮らす男性(58)は、大規模団地の将来が不安だという。「36年前は最先端だったかもしれないが、今は狭くてエレベーターもない。魅力ある住宅にしないと、若い世代も定着しない。低所得者のサポートも含め住宅政策を充実してほしい」と話す。

◆外環道

 杉並区の善福寺公園。日差しを浴びてカモが気持ちよさそうに泳ぐ池の東側に、地下40メートルの大深度地下方式で東京外郭環状道路(外環道)が計画されている。

 近くの大学に通うという女子学生(21)に聞くと、「地下に造ってもきっと影響が出るから、あまり賛成できない」と表情を曇らせた。

 犬の散歩によく来るという主婦(49)は、2年前に練馬から転居してきた。公園などの環境が気に入ったという。外環道は、自宅のほぼ真下を通る。「地下になってよかったけど、それでも影響があるんですか?」

 付近では、地下水脈などに悪影響が出るとして外環道への反対運動が続いている。近くに住む大塚康高さん(64)も、メンバーの一人だ。「今はほとんどの政治家が企業寄り、開発寄り」と選択肢の少なさを嘆く。「でも自分の住む街を大切に思う人が増えていけば、議会や首長も変わっていくのでは」

http://mytown.asahi.com/tokyo/news.php?k_id=13000000703230002