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2007年03月23日(金) 00時00分

臨界隠し 北電常務関与 朝日新聞

 ≡「開いた口ふさがらぬ」≡
    住民らの怒り頂点 

 何を信じればいいのか、本当にほかに隠し事はないのか——。北陸電力による志賀原発1号機(志賀町)の臨界事故隠しで、同社が「発覚まで本店に情報が上がってこなかった」と説明していたにもかかわらず、現役の常務取締役が当時、事故の隠蔽(いんぺい)工作に加担していたことが明らかになった22日、県や町、住民からは同社に対する怒りが噴き出した。

 志賀町議会ではこの日、臨時全員協議会が開かれ、同社の松波孝之副社長らが一連の経緯を説明したばかり。全協に出席した稲村幸雄町議は「びっくりした。今日の全員協議会でも説明はなかった。開いた口がふさがらない」と驚きの声を上げた。

 また、北電はこれまで、県に対しても何度も説明を行ったが、現役役員の関与について説明はなく、県原子力安全対策室の松橋幸雄室長は「常務が当時、事故の隠蔽にかかわっていたとしたら、遺憾なことだ」と話した。

 原発が立地する同町赤住地区。無職男性(56)は数日前に北電からの臨界事故隠しについて謝罪電話を受けたばかり。「悪いことをして出世したのなら大変不愉快だ。北陸電力は町民だけじゃなく国民の信用も薄らぐのでないか」とまくしたてた。

 志賀原発2号機差し止め訴訟原告団の多名賀哲也事務局長(64)は「やはりそうだったか。実質的に会社ぐるみの隠蔽(いんぺい)だった、ということ。安全対策の不備を隠した、などという話ではなく、犯罪を組織的に隠してきたとさえ言え、感心するしかない」と話す。地元で長年原発反対運動を続けてきた小川一男さん(75)も「現役役員の中に関与している人間がいるのは、話が分かりやすくなっていいこと」と皮肉った。

 「原発震災を案じる石川県民」世話人の中垣たか子さん(55)=金沢市=は「社長は『私は事務屋だから』とひとごとのように発言したり、ホームページのおわびは遅れて掲載されるなど、事故後の対応を見ても安全に運転する能力に欠ける。原発から撤退するしかない」と言い切った。

 この常務は99年当時、志賀原発の所長代理で、臨界事故を受けて緊急招集されたが、所長らと隠蔽を申し合わせたとされる。現在、同社は「調査対象者の一人」としている。

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 ≡「原発から撤退を」の声も≡

 志賀原発1号機の臨界事故隠しを受けて、志賀町役場で22日、臨時の町議会全員協議会が開かれた。出席した北陸電力の松波孝之副社長らが一連の経緯を説明して謝罪を繰り返したが、「町から出て行って」「原発から撤退を」などと議員の反応は厳しかった。

 北電からは松波副社長のほかに紫藤正一執行役員(志賀原発担当)、黒田雅信・志賀原子力事務所長ら計5人が出席。スライドなどを使って、事故が起きた状況や発覚の経緯、その後の対応などについて説明。松波副社長が「今回の事態で信頼という最も大きな宝物を失ってしまった。地元の怒りはもっともで、おわびの言葉もありません」「二度と起こさないよう全社をあげて取り組む」と謝罪した。

 これに対し、議員側は「なぜ8年間も事故が隠されたのか」「まだ隠しているトラブルがあるのではないか」と質問したが、松波副社長は「調査中で、もう少し時間がほしい」「30日までに国にきちっと報告するまで待ってほしい」と述べただけ。また、永原功社長ら北電幹部の責任を問う質問には、「原因究明が最優先」とした上で、「永原社長は、普段から安全意識の大切さなどを社内で説いている。(発覚直後の会見などで)社長の真意が伝わっていない」などと永原社長をかばう発言に終始した。

 議員からは「今回の事態は北電が説明するような『事象』ではなく、『事件』だ」「反省の言葉はもう聞きたくない」「町民と共生する気がないなら、町から出て行って下さい」「会社を存続させたいのなら、原発から撤退すべきだ」と強い口調の発言が続いた。

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 志賀町議会の松浦恒義議長らが22日、富山市の同社本店を訪れ、松波孝之副社長に申入書を手渡した。事故隠しについて申入書は「今後町民の信頼を裏切るこうした行為があれば、志賀原発の運転再開について再考を求めざるを得ない」として再発防止を強く求めている。

 松浦議長は申し入れ終了後、「人的な部分での信頼が崩れた。取り戻すには原発を新設するよりも一層厳しい環境だ」と話した。

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 ≡万全な対策を経産相に要望へ≡

 北陸電力による志賀原発1号機の臨界事故隠し問題で、谷本正憲知事は23日上京し、甘利明経産相に今後の対策などに万全を期すよう要望する。谷本知事は22日、記者団に対し「大臣にはすでに報告がいっていると思うが、やはり現場の声をお伝えしたいと思い急きょ決めた」と述べた。

 また、県は27日に有識者からなる県原子力環境安全管理協議会(会長=山岸勇・副知事、27人)を県庁で開き、北電の永原功社長を呼び、事故の説明を受ける。当初は4月の予定だったが、前倒しした。

 同協議会は県が北電などと結んだ安全協定に基づき設置されたもので、年4回開かれている。会合には谷本知事も今回初めて出席し、冒頭、各委員に徹底調査を要請する。

http://mytown.asahi.com/ishikawa/news.php?k_id=18000000703230001