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2007年03月23日(金) 23時24分

「築地」移転、都知事選の争点に朝日新聞

 首都圏の台所とも言われる築地市場(東京都中央区)の移転問題が、都知事選の争点に浮上している。都が移転先に決めた豊洲地区(江東区)の土壌汚染を理由に、新顔の主要4候補はそろって「移転反対」を表明。移転計画を進めてきた現職の石原慎太郎氏も、食の安全が絡む問題だけに急きょ態度を軟化させた。

 選挙戦初日の22日午前、前宮城県知事の浅野史郎氏は築地市場でマイクを握った。「汚染地への移転には反対です」

 水産仲卸業者らでつくる「市場を考える会」のメンバーが、満足げに演説に聴き入った。浅野氏は、移転反対を掲げる同会に招かれて10日に市場を視察。15日公表したマニフェストでは言及しなかったが、その2日後、「歴史ある築地を動かすのは、日本の文化に対する冒涜(ぼうとく)に近い」と、反対に向けてかじを切った。

 元足立区長の吉田万三氏、建築家の黒川紀章氏も選挙期間中に築地で「移転反対」を訴える予定。発明家のドクター・中松氏も、告示後の街頭演説で反対を表明した。

 都は、移転後の跡地を五輪のメディアセンターにする計画を描く。移転は五輪招致の是非にも絡むテーマだ。

 この問題がにわかに脚光を浴びたのは15日夜のテレビ番組だった。五輪招致反対を訴える吉田氏と黒川氏が、積極的に築地移転を引き合いに出した。「(移転を)承認したのは私の時だけど、もう決まっていた話」。石原氏は弁明に追われた。

 しかし、翌16日に石原氏は方針転換。「食の安全にかかわることですから、少し延期せざるを得なくても安全を図るべきだと思う」と会見で述べ、豊洲の土壌の安全性について専門家に意見を聴く方針を示した。

 市場で働く人の間でも、賛否は様々だ。考える会の役員を務める山崎康弘さん(38)は「心情的には移転反対派の人に勝ってほしいが、知事選の結果にかかわらず、食の安全を脅かす移転に反対を訴え続けたい」。

 一方、賛成派には戸惑いもある。青果の卸売業者でつくる「築地本場青果卸売協同組合」の大沢誠司理事長(70)は「豊洲以外の移転先を探すのは困難。知事選で土壌汚染のイメージが先行すれば、食品を扱う我々には大打撃」と話している。

     ◇

 〈キーワード:市場移転と土壌汚染〉 1935年開場で老朽化した施設について、築地での建て替えか移転かが業者間で論争となる中、都は01年に東京ガスの工場跡地の豊洲への移転を正式決定。だが同年、豊洲の土壌が発がん性物質ベンゼンなどで汚染されていることが発覚した。都は土壌の入れ替えやアスファルト化などによって「安全は確保される」とし、12年度中の移転を目指す。日本環境学会は今年2月、有害物質のガス化による噴出の恐れを指摘した。

http://www.asahi.com/politics/update/0323/012.html