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2007年03月04日(日) 01時32分

3月4日付・読売社説(2)読売新聞

 [ツアーバス]「『安全』に影を落とす規制緩和」

 格安料金で人気を集めるツアーバスの安全は大丈夫か。春の観光シーズンに入るのを前に、運行態勢の点検を徹底する必要がある。

 大阪府吹田市で先月半ば、スキー客を乗せた大型バスがコンクリート柱に激突し、乗務員1人が死亡、26人が負傷した。バスは長野県のスキー場から大阪市内に戻る途中だった。

 21歳の運転手は警察の調べに、「今月は1日休んだだけで、睡眠は連日5時間程度しかなく、居眠り運転していた」と供述した。勤務先の長野県のバス会社が当日も徹夜運転させていた。

 長距離や夜間運転で交代の運転手を置くよう定めた国土交通省令や、長時間や連続の勤務を禁じた厚生労働省告示などに違反していた疑いがある。事故の背後に、2000年の道路運送法改正による規制緩和の“影”がのぞく。

 貸し切りバス事業は免許制から許可制になり、新規参入が相次いだ。事業者は一昨年3月時点で、5年前の1・6倍の3700業者に増えた。7割以上を10台以下の零細業者が占める。この会社も新規参入組で、家族経営に近かった。

 一方、全体の営業収入は16%減った。自由化で運賃は半減し、しわ寄せから運転手の過重労働が横行している。中でもスキーバスは、今年の暖冬が追い打ちをかけた。規制緩和には、利用者のサービス向上というプラス面もあるが、安全が置き去りにされてはならない。

 一昨年、全国の労働基準監督署が実施したバス事業者への立ち入り調査では、半数近くで、労働基準法違反の長時間運転などが見つかった。運転手らの労働組合が2年前、高速道路のサービスエリアでバス運転手に行ったアンケートでは、75%が居眠り運転を経験していた。

 事故多発の直接の責任は、無理な運行スケジュールを組んでいるバス会社にある。同時に、バスツアーを企画する旅行会社も、運行実態を確認すべきだ。

 悪質業者を淘汰(とうた)するには、行政の監督の強化と、厳格な処分が必要だ。

 事故を起こしたバス会社は、労働基準監督署から長時間運転の通報を受け、国交省の運輸支局が監査に入っていた。

 国交省は昨年2月、監査手法を見直した。新規業者に開業後6か月以内の早期監査を実施する。行政処分を受けた業者の改善状況を調べる。抜き打ち監査もする。今年1月からは運輸支局の監査担当官を全国で30人増員した。

 しかし、どこまで実効を上げたのか疑問だ。労務管理を監督する厚労省との連携を強化し、安全の徹底へ果断な手を打たねばならない。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070303ig91.htm