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2007年02月24日(土) 01時28分

2月24日付・読売社説(1)読売新聞

 [鹿児島無罪判決]「まだこんな『自白偏重』の捜査が」

 客観証拠による裏付けという基本を無視した「ずさん捜査」と言うほかない。

 2003年4月の鹿児島県議選をめぐる公選法違反(買収)事件で、鹿児島地裁は被告全員に無罪を言い渡した。

 自白をもとに元県議ら13人が起訴されたが、地裁は「自白はいずれも信用できず、他に起訴事実を認めるに足りる証拠もない」と断定した。

 事件の舞台になったのは、鹿児島県の東端に位置する志布志市内で、7世帯しかない集落だった。新人候補の元県議がそこで4回にわたって会合を開き、住民11人に現金計191万円を配って投票と票の取りまとめを依頼したとされた。

 そんな小さな集落に多額の現金を投入することがあるのか、と思うのが自然な感覚だろう。買収資金の出所は解明されず、元県議の犯行を否定するアリバイ証言もあった。だが、鹿児島の県警と地検は住民らの自白だけを根拠として、訴追していた。

 その自白に関し、裁判長は強圧的、誘導的な取り調べで引き出された可能性があると述べた。また、買収資金については、「カネの出」を裏付ける何らかの客観的証拠があってしかるべきなのに「そのような証拠はまったく提出されていない」と捜査当局を厳しく批判した。

 県警、地検の完敗である。

 この県議選をめぐる一連の捜査に対しては、県警の「違法な取り調べ」を訴える民事訴訟も3件起きており、うち1件で県側の敗訴が確定している。

 「こんな人間に育てた覚えはない」などとする父親ら親族の書面を捏造(ねつぞう)したうえ、それを足で踏ませて自白を迫ったというものだ。県側はその事実を認める形で控訴を断念した。

 警察のずさん捜査は先月、富山県警でも表面化したばかりだ。強姦(ごうかん)事件の犯人として服役した男性が、犯人でないことがわかった。男性にはアリバイがあったほか、現場の足跡が明らかに男性のものとは違っていたのに、自白偏重の捜査で逮捕、起訴されていた。

 鹿児島県警も富山県警も、客観証拠を軽視した自白偏重の調べを反省し、捜査態勢の抜本的な立て直しを図るべきだろう。ずさん捜査を見過ごした検察の責任も重大である。

 2009年からの裁判員裁判の実施を前に、検察は取り調べの録音・録画の試行を始めたが、今のところ、対象は地検の取り調べに限定している。しかし、こうしたずさん捜査が相次ぐようでは、警察の取り調べの透明化も考えなくてはならなくなるだろう。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20070223ig90.htm