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2007年02月12日(月) 00時00分

差し押さえ研修会に参加 『地方分権の試金石』 動産の差し押さえ演習をする市町村職員たち。各自治体は徴収率アップが課題となっている=水戸市で 東京新聞

 県税や市町村税などの徴収業務をこれまで以上に強化する県内自治体が増えている。今年から「三位一体の改革」に伴って所得税から個人住民税への税源移譲が始まることで、税の徴収率が自治体の財政に直結することが背景にある。差し押さえや公売など、税務課職員の技術を磨くために実施した研修会を見た。 (秦淳哉)

 「捜索は『させていただく』ものじゃない。強制なんですから」。一月に水戸市内で開かれた動産の差し押さえの研修会。市町村の税務課職員が悪質滞納者を想定して実施した捜索の演習を見て、講師の堀博晴さんが厳しく指摘した。

 演習は、さまざまな理由をつけて捜索を渋る滞納者に説得を繰り返し、差し押さえの捜索を円滑にするための訓練だ。法律に基づいた厳正な処置のため、弱気な態度で臨むことは許されない。

 堀さんはインターネット検索で有名な「ヤフー」のコマース営業本部官公庁担当。自治体の滞納整理を進める手段として、動産の差し押さえや捜索の方法を伝えている。差し押さえた動産を売却するのに、同社のインターネット公売利用を促す目的もある。

 堀さんも元東京都主税局徴収部の職員として、数多くの捜索現場を経験してきた。「できるだけ早く自宅や事務所の中に入ること。入っちゃえば勝ち。ほとんどの人は黙っていますから」とコツを伝授。さらに「換価価値は判断しなくていい。インターネット公売では大半のものが売れる」と付け加えた。

 県と茨城租税債権管理機構が研修会を主催したのは、個人住民税の徴収率アップが大きな課題となっているためだ。国から地方へ三兆円の税源移譲を受けた結果、従来は所得税で徴収された部分が住民税として徴収される。

 県内自治体の個人住民税の徴収率は89・1%。全国四十五位の低水準にとどまっており、県市町村課は「全額徴収が前提の移譲のため、徴収率ダウンはそのまま自治体のダメージとなる」と懸念する。県への移譲は約七百十七億円の見込みだが、仮に徴収率が95%でも、毎年約三十六億円が従来の補助金より不足し、財政運営を圧迫する。

 一方、これまで売却が困難だった差し押さえた動産は、インターネット普及による売却ルート拡大が追い風となっている。二〇〇五年度、市町村の差し押さえ件数は二千九百七十二件あったが、すべて不動産と債権で動産は一件もなかった。差し押さえがやりやすい環境が整ってきたことで、鹿嶋市は来年度、県内で初めてインターネット公売を導入する予定だ。

 さらに、全庁体制で徴収強化(常総市、神栖市、石岡市)、条例で滞納者への行政サービス制限(坂東市)、コンビニ納税(取手市、神栖市)など、独自に徴税対策を取る自治体も出ている。県は徴収率アップが「地方分権を担えるかどうかの試金石」と位置付けており、積極的な徴税の取り組みが今後も進みそうだ。


http://www.tokyo-np.co.jp/00/ibg/20070212/lcl_____ibg_____000.shtml