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2007年02月07日(水) 17時37分

「金で釣る」政策批判/応募の波紋朝日新聞

  東洋町が高レベル放射性廃棄物最終処分場の調査候補地に応募した問題で6日、応募書を受理した原子力発電環境整備機構(原環機構)と経済産業省資源エネルギー庁を訪れた高知県の橋本大二郎知事と徳島県の飯泉嘉門知事は、調査を行わないように申し入れるとともに、多額の交付金を支払うことで進めようとする原子力政策を強く批判した。応募や誘致そのものについて地元の意見が分かれ、地域の溝を作り出しかねない状況に国の政策も問われている。(岡見理沙)

  「東洋町では住民合意が出来ていない。日本の原子力政策は民主主義のルールをなぜ守らないのか」。東京都港区の原環機構。橋本知事は強い口調で、山路亨理事長に詰め寄った。「国民的に安全性の不安が言われるプロジェクトを地域の同意を得ず、県知事も明確に反対している中で進めるべきではない」

  産業や観光面での風評被害への懸念、反対の意思を周辺の自治体も表明していることなどをあげ原環機構が応募書を受理したことを批判する橋本知事に対し、山路理事長は「慎重に対応して参りたい。高知や徳島の地域住民に対しても十分同意を得ることが必要だと考えている。県のご指導を頂きながらしっかりやっていく」と答えたが、橋本知事は「県の指導を受けるならやめて頂きたい。言葉だけ住民の同意といっても結局はそのまま押し切ろうとしているのが見え見えなんですよ」と強い口調で迫った。

  さらに、手続きは公募制で自治体の自主性を尊重していると主張する山路理事長に対し、「これだけのお金で釣っておいて公平な公募といえるのか。公募ならお金をつけずに議論すればいい。財政の厳しい地方自治体をお金で釣るような国の政策はおかしい」と国が進める原子力政策そのものについても疑問をぶつけた。

  また、東洋町と隣接する徳島県の飯泉知事も「県知事が反対を表明しているのにどうして今あえて手続きをすすめるのか。町長のハンコがあれば受け付けるのか。あまりにも拙速過ぎる」と批判。さらに「隣接する地域住民の同意を求めないのか。これ以上の混乱を広げないで欲しい」と配慮を求めた。

  両知事との会談では、「地域住民の同意を得ることが必要だと考えている」と話していた山路理事長は会談後の取材に対し「地域住民への理解活動を進めつつ、調査に入るため申請する」と述べ、文献調査に向けた国への許可申請手続きをする意向を示した。

  両知事は資源エネルギー庁でも同様の申し入れをした。同庁放射性廃棄物等対策室によると、望月晴文長官は「原子力政策は地域の同意が必要であり、両知事が来たことは重く受け止める。ただ町長も重い決断をしておりこれを評価したい。(原環機構から)国に申請があれば適切に判断する」と述べたという。

「文献調査で決まらない」/甘利経産相

  東洋町の高レベル放射性廃棄物最終処分場候補地応募について甘利明経産相は6日、閣議後の会見で、「文献調査を受けたからそこで決まるというのではない。文献調査をするかどうかも原環機構はこれから判断する。決してやろうとしていることが危険なものではないということを地域住民の方々に説明をしていくことが大事だ」などと述べた。

署名簿、選管に提出 住民ら1452人分を

  東洋町が高レベル放射性廃棄物最終処分場の候補地調査に応募したことを受けて、放射性廃棄物の持ち込みや関連施設の建設を拒否する条例の制定を求める直接請求のための署名活動をしていた住民らが6日、1452人分の署名簿を町選管に提出した。選管が署名を審査し、縦覧のあと、田嶋裕起町長に直接請求され、議会にはかられることになる。

  この日、同町役場を訪れたのは、条例制定請求代表者の弘田祐一さん(69)ら請求人9人と、誘致反対を訴える「東洋町を考える会」のメンバーや住民ら約50人。先月31日から始めた署名集めは、当初200人を目標としていた。署名活動は地方自治法の規定で県議選の選挙期間にあたる今月7日から4月8日まで中断し同月9日に再開、同月30日まで集めることができたが、今月5日までに、請求に必要な有権者の50分の1(約60人)をはるかに上回る1452人の署名が集まったため6日の提出となった。

  選管では20日以内に署名の有効性を審査し、署名簿縦覧などのあと、異議の申し立てがなければ署名簿を請求代表者に返付。代表者が改めて署名簿を添えて町長に本請求する。町長は20日以内に議会に条例案を提案しなければならない。

  署名簿の提出後、来年度予算の査定中だった田嶋町長が姿を現し、住民たちとの話し合いの場が持たれた。田嶋町長は「応募イコール誘致ではない。文献調査に応募しながら勉強をしていこうということだ」と理解を求めたが、住民側からは、「応募せずに勉強はやれる」「目的も手段も間違っている」「白紙に戻せ」などの意見が相次ぎ、論議は平行線をたどった。

  また、「東洋町を考える会」の西田裕一代表らが、松本太一議長に新たに集まった誘致反対の請願書署名簿、1万2408人分を提出した。署名数は町内外を合わせ2万5127人分となった。

   ◇

  安芸市は松本憲治市長名で、最終処分場誘致に強く反対する旨の申入書を5日に、東洋町長あてに郵送したことを明らかにした。

受理撤回活動 県に支援要請/反対の東洋町議

  東洋町の高レベル放射性廃棄物最終処分場の候補地応募に反対する同町議6人が6日、応募書の受理を撤回するよう国や原環機構に求めていく取り組みについて、県の支援を求める橋本知事あての陳情書を県に提出した。陳情書は松本太一・町議会議長ら6人の連名。この日は佐竹新一副議長ら3人が県庁を訪れ、十河清・企画振興部長に陳情書を手渡した。

  陳情書では「町長は、町議6人の反対表明と、町民6割以上の反対の請願書が提出されると、急きょ独断で応募した」と指摘。「町民の意思確認や議会との協議を軽視したもので、近隣市町村からの申し入れにも誠意ある対応をしていない」と批判した上で、「我々は引き続き町長と協議を重ねるが、国に受理の撤回を求める取り組みも重要。知事に特段の尽力をいただきたい」とした。

  佐竹副議長は「国への働きかけをお願いしたい。我々も(10人の町議のうち)6人が一丸となって反対運動を展開していきたい」と述べた。十河部長は「応募は合意が前提となるべきだ。知事が『おかしい』と申し入れをしており、今後は原環機構などの動きを見ながら、対応すべきところで対応したい」と答えた。

http://mytown.asahi.com/kochi/news.php?k_id=40000000702070003