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2007年01月10日(水) 22時34分

ナンバーワン白書/糖尿病日本一だけど・・朝日新聞

 県内の人口10万人当たりの糖尿病死亡率は93年以降、13年連続でワースト日本一。その間、2位は福井や三重、福島、和歌山などと数県入れ替わりながらの混戦模様だが、徳島県はワースト記録を続け、05年には過去最高の18人を記録した。患者数も299人(02年、人口10万人当たり)で、2位に38人の差をつけて日本一。一方、県内の医師数は282・4人(04年、同)で日本一多い。

「お前、ほんまに太ったなあ」。徳島市の会社員、曽木洋次郎さん(28)は知人に会うたびにそう言われる。166センチ、85キロ。体脂肪率は30%超。学生時代はそれほど太ってはいなかったが、社会人になってからみるみる増えた。妻の妊娠時には、2人でおなかを出した写真が、「妊婦2人」と子育て情報誌に掲載された。

 とにかく食べる。朝はご飯を3杯、昼飯は必ず大盛り。飲んだ後は、当然ラーメンにライス付き。食後のごろ寝が至福だという。

 有名連に所属し阿波踊りを20年来続けている。練習期間を含め、1年の半分は踊りに精を出す。が、太る。「がっちり食べておかないと踊れない。それに、踊った後のビールが最高」。糖尿病は気になるが、「腹は常に満タンにしておきたい」と強調する。

 タウン誌出版社「あわわ」とコンビニエンスストア「サンクス東四国」がこの秋、共同で開発した「あわわW丼」。チキンカツと豚丼をドッキングさせた「究極の丼」はカロリーも1500キロと「究極」だった。開発担当者(高松市出身)さえ「全部は食べきれなかった」というこの弁当、サンクスの県内での弁当売り上げ史上、最高を記録。2週間限定で1万食強、従来の最高販売数の2倍だった。同社の弁当の味付けは「徳島が四国で最も濃い」という。

 徳島はソースの購入数(05年、1世帯当たり)とコメの消費量(05年度、1人当たり)も日本一多い。こうした食文化の特徴を、20、30代を購読層にする「ASA」の有賀仁美編集長は「まんぷく文化」と呼ぶ。昨年発刊した12刊のうち11刊は食事特集だった。理由は「食事こそレジャーだから」。「まんぷく」という文字が表紙を飾ると、1割多く売れるという。

 「背景には、お接待の精神がある」とも。「相手をおなかいっぱいにして満足させる。出された方は残さず食べる。それが食生活や飲食産業にも表れているのでは」

 阿波踊りに代表される「エネルギッシュな徳島」を支え、もてなしの文化に裏打ちされてきた豪快な食習慣。しかし、生活スタイルの変化で運動不足が進み、マイナス面が深刻化してきたようだ。

 飽食と運動不足が原因で、さまざまな病態を招くメタボリック症候群。その悪い結果の一つが糖尿病だ。県は05年11月、危機的状況を脱するため、「糖尿病非常事態宣言」を発令。「伝統芸能と料理で現代病を征す」。目を付けたのは阿波踊りと阿波料理だった。

 阿波踊り体操の振り付けを考えた徳島大学の田中俊夫教授(スポーツ社会学)は、いつでも、どこでも、年齢を問わず無理なくできる体操を目指した。開発に約半年。ぞめきのリズムに合わせ、両腕、両脚を上げ下げしたり、腰を落としてストレッチをしたり、約3分半の体操が出来た。人によって差はあるが、一回の踊りで数十キロカロリーを消費する。

 毎週月曜日、徳島市のふれあい健康館では、約100人が踊る。阿波踊り経験はないという50代の男性は、「ぞめきは耳になじんでいるので踊りやすい。けっこうしんどいんですな」と汗びっしょり。昨秋には約400人の市民指導員も誕生。小学校の準備体操にも採り入れられ始めた。

 日本一多い医師たちの現場では様々なやりとりが積み重ねられている。ある日、川島病院(徳島市)名誉院長の島健二医師(72)のもとに54歳の男性がやって来た。35歳で糖尿病の予備軍と指摘されたが、ずっと放置し、「かなりひどい状態」だった。ところが3カ月後、劇的に回復した。理由を聞いた。「スピード違反で免停になりまして……」。毎日40分の自転車通勤を強いられたのがよかったようだ。「早期に治療を始めれば、たったそれだけの運動の継続でも症状は改善できるのです」

 鳴門市に住む松本吉晴さん(66)は3年半前から毎晩、1時間のウオーキングを欠かさない。糖尿病の「がけっぷち」から生還した体験を持つからだ。02年春、胸が苦しくて倒れ、川島病院に入院。病棟で合併症に苦しむ患者や家族の姿を見た。「40代の男性が脚を切断し、奥さんがすすり泣いていた。『普通の生活していたのに、どうして』って」

 今では仕事に復帰し、不自由なく暮らす。が、気を緩めれば再発する。以前は食べるのが大好きだったが、食品を見ると自然とカロリー計算をするようになった。

 こうした現場での実例を基に、島医師を中心とした県医師会糖尿病対策班は06年7月、「糖尿病征圧の戦略」を発表、全医療従事者が予防や継続治療への共通意識を持つよう呼びかけた。「完治は難しい病気だが、自己管理次第で付き合っていける」と強調する島医師は「必要なのは我慢強く続けること。医師はそれをサポートし続けることだ。全国で横行する生活習慣病との闘いにおいて、徳島こそが最前線だ」と力を込めた。

      ◇

 努力で勝ち取った数々のナンバーワン。不名誉な「日本一」も逆手にとり、解決に向けた意欲的な動きもある。捨てたもんじゃないよ、徳島。

 (この連載は佐々木洋輔、柳沢敦子、三浦宏が担当しました)
 

http://mytown.asahi.com/tokushima/news.php?k_id=37000000701100001