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2007年01月09日(火) 10時13分

機長、二審も無罪 日航機の乱高下事故朝日新聞

 三重県志摩半島付近の上空で97年6月、香港発名古屋行きの日本航空706便が大きく揺れ、乗員1人が死亡、乗客13人がけがをした事故で、業務上過失致死傷の罪に問われ一審で無罪(求刑禁固1年6カ月)となった機長の高本孝一被告(56)の控訴審判決が9日、名古屋高裁であった。門野博裁判長は一審判決を支持し、検察側の控訴を棄却した。

名古屋高裁前に集まった高本機長の支援者たちに無罪判決の一報が知らされた=9日午前10時1分、名古屋市中区三の丸1丁目で

 死者が出た国内の航空機事故で、大型旅客機の機長が操縦について過失責任を問われるのは異例。改めて無罪の判断が下ったことで、航空事故の責任追及のあり方に影響が出そうだ。

 控訴審では、高本機長が自らの操縦による人身事故の発生を予測できたかどうかが最大の争点となった。一審は、この「事故の予見可能性」を否定し、無罪の主な根拠としていた。

 控訴審で検察側はまず、機長が減速しようと操縦桿(かん)を引いて自動操縦が解除され、機首上げが生じて事故につながったと、一審の認定と同様の主張を展開した。

 その上で、機長が行ったような操作で機体が上下動し、事故の可能性があることは当時の運航マニュアルに記され、パイロットの間でも周知されていたと主張。「極めて強い力を操縦桿に加えており、事故に結びつく危険は十分に予想できた」と、無罪判決の破棄を求めていた。

 一方で、弁護側は「機体の上下動は、操縦桿以外の原因が作用した」と反論。マニュアルに関しても、事故当時の高度や気流の状態には適用されず、予見可能性を否定した一審は正当だとした。さらに、「事故前にシートベルトの着用を指示しており、従えば死傷は避けられた」として、事故の前提となる過失がないとも主張していた。

 一審の名古屋地裁は04年7月、高本機長の意図的な操作により、自動操縦が解除されて機首上げが起きたと認定。検察側の求めで証拠採用した運輸省航空事故調査委員会(当時)の報告書に沿う形で事実を認定した。

 一方で、マニュアルは操縦桿による自動操縦の解除を禁じていたとは認められないとし、「機長は、機体の上下動や事故の発生までは予想できなかった」として無罪を言い渡していた。

 弁護側は控訴審で、一審が報告書を採用した点について「再発防止が目的の事故調査を刑事裁判に使えば、今後の調査に支障が生じる」と改めて批判していた。

http://www.asahi.com/national/update/0109/NGY200701090002.html