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2006年12月31日(日) 01時32分

12月31日付・読売社説(1)読売新聞

 [フセイン処刑]「憎悪の悪循環をどう断ち切るか」

 政治色が濃い性急な死刑執行ではなかったか。国民融和が求められるイラク再建へ、今後どのような影響を及ぼすか、見極める必要がある。

 「人道に対する罪」で死刑が確定していたイラクの元大統領サダム・フセインに対する絞首刑が執行された。イラク高等法廷の上訴審で、死刑が確定してわずか4日後の執行だった。

 約30年間にわたりイラクを強権支配した元大統領は、イスラム教シーア派やクルド民族に対する苛烈(かれつ)な弾圧政策で、イラクの「安定」を維持してきた。一方、スンニ派国民にとっては、スンニ派権力の象徴とみなされてきた。

 死刑執行は、現在、イラクで激化する宗派抗争をさらにあおりかねない。そのため、処刑のタイミングには、政治的判断の余地もある、との見方もあった。

 だが、シーア派が主導するマリキ政権は、むしろ執行を急いだ。

 治安改善に有効策を打ち出せないまま求心力を失いつつある政権浮揚のため、シーア派やクルド民族の復讐(ふくしゅう)心に訴えようとしたのだろうか。現在の情勢は、フセイン個人の命運とは直接かかわりがないほど深刻化している、との判断も働いたのだろうか。

 マリキ政権にとっては、大きな賭けであるのは間違いないだろう。

 マリキ首相が最優先すべきは、国民和解の道を探ることだ。それなしには、政権維持は難しく、いかなる再建策も絵に描いた餅(もち)となる。

 処刑後、シーア派住民が多い南部の町の市場で爆発事件が発生し、数十人が死傷した。処刑との関連は不明だが、マリキ政権は、スンニ派が元大統領の死を前面に押し出し、攻勢を強めてくることを覚悟しなければなるまい。

 フセイン裁判は、イラク民主主義を試す機会でもあったが、政治指導者が介入するなど、多くの疑義が指摘された。法の支配を無視した元大統領に対し、選挙で選ばれた新生イラクの指導者は、民主的手続きを経た裁判の先例を残す好機を失った、との見方も出ている。

 クルド人虐殺やクウェート侵攻など、フセイン政権による別の犯罪の真相解明が困難になった点も気がかりだ。

 国際社会、とりわけ米国のイラク支援がますます大切だ。

 ブッシュ大統領は、年明けにも新たなイラク政策を明らかにする予定だ。これまでのイラク政策のどこが間違っていたのか、なぜ機能しなかったのか、率直な検討が必要だろう。

 柔軟で効果的な新政策を打ち出し、イラク支援の実を挙げることが重要だ。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061230ig90.htm