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2006年12月28日(木) 00時00分

近隣トラブル過熱/06年記者ノート朝日新聞

  ●「騒音おばさん」実刑判決
  ●事件化すれば傷跡深く

  (高橋 昌宏)

  「ビデオを見せて下さい」。裁判長に促され、検事が証拠として申請したビデオテープを再生すると、静まり返った法廷にあの映像が流れた。

  ラジカセから吐き出される大音量の洋楽。「引っ越し、引っ越し」の大きな声と、敵意むき出しの形相。一方、法廷での河原美代子被告(59)は受け答え、表情とも穏やかで、別人のようだ。

  被害者は道路を挟んだ向かいの女性(65)。4月の一審・奈良地裁判決は夜間を含めほぼ一日中、窓を閉めた状態でも騒々しい音に悩まされ続けたと認めた。

  さらに、河原被告が、被害女性の高血圧症を知っており、警察や町から何度も注意を受けながら騒音を出し続けたことから、傷害の未必的故意があったと判断。懲役1年(求刑懲役3年)の実刑判決を下した。

  大阪高裁は今月26日の控訴審判決で、傷害の確定的故意を認めたうえ、「隣人への敵対的態度を今も崩しておらず、再犯の可能性が高い」と一審判決を破棄し、懲役1年8カ月を言い渡した。

   ◆   ◆  

  「住宅開発が進み、古都奈良に他府県から新たな居住者が増加した結果、人的なつながりが希薄となり、近隣関係の苦情件数はうなぎ登り。警察、行政は対応に追われている」。河原被告の事件で検察側は異例の指摘をした。

  「騒音おばさんの町」として有名になった平群町。国道沿いには「〜台」「〜ケ丘」などの名前のニュータウンが広がる。「自然に近く、都心に近い」。ある分譲住宅地のコピーだ。

  町によると、大阪・難波から電車で約40分の地の利から約40年前から開発が始まり、町民の8割を新住民が占める。

  奈良の県外就業率30・89%は全国一。県内に家を建て、大阪や京都に通勤する「奈良府民」は住んでいる地域への意識が薄い人が多いとの指摘もある。

  司法担当だった私は、ほかにも近隣トラブルの取材にかかわった。

  5月。同じマンションに住む女性に無言電話をかけ続けるなどして重度ストレス反応の症状にさせたとして、傷害などの罪に問われた生駒市の無職の女(33)が懲役1年6カ月(求刑懲役5年)の判決を受けた。捜査段階で「2年ほど前に声をかけたら無視された」と動機を供述していた。

  その約1カ月前には、飼い犬に狂犬病の予防接種を受けさせなかったなどとして、奈良市の70代の女性弁護士が狂犬病予防法違反と県動物愛護条例違反の疑いなどで書類送検された。庭には約20頭がいたとされ、近所から「犬にかまれた」「汚物が放置されている」との苦情が相次ぎ、保健所が告発に踏み切った。

  この件で、捜査幹部は「度を超えた実態を何とかしようと、色々法律をめくって適用できる法令を探した」と明かす。

   ◆   ◆   

  近隣トラブルが事件に発展すると悲惨だ。証人として出廷した被害者が、被告の弁護人から「あなたにも問題がなかったのか」などと厳しい質問を受けることもある。

  何より、どちらかが引っ越さない限り、いずれはまた近所同士となる。河原被告も、逮捕後の勾留(こうりゅう)日数のうち計500日が刑に算入されたため、判決が確定すれば約3カ月で社会に戻ることになる。

  深刻な事態に陥る前に解決の糸口を見つけるにはどうすればいいのか。学者の中には「米国のように、近隣トラブルを解決するためのボランティアによる調停制度を導入すべきだ」との声もある。

  夢のマイホームを手に入れた直後に悪夢——というのはあまりに悲しい。

 《平群町騒音傷害事件》約2年5カ月にわたってラジカセを使って大音量の音楽を自宅から流し、隣人女性に睡眠障害や頭痛などを起こさせたとして、県警は05年4月、無職河原美代子被告を傷害の疑いで逮捕した。公判で、河原被告側は「音楽を流す行為と傷害との因果関係が不明」などと無罪を主張した。

http://mytown.asahi.com/nara/news.php?k_id=30000000612280002