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2006年12月28日(木) 02時22分

12月28日付・読売社説(2)読売新聞

 [毒ぶどう酒事件]「裁判員裁判の課題が浮上した」

 刑事裁判における事実認定の難しさが浮き彫りになった。2年半後に実施が迫った裁判員裁判への影響も大きい。

 「名張毒ぶどう酒事件」で、一度は開かれた「再審の扉」を再び閉ざす決定が出された。

 裁判が曲折をたどる中で、重要な争点となったのは鑑定への評価だった。もし裁判員制度の下で行われていたら、裁判員に選ばれた一般市民は、大いに困惑したことだろう。

 事件は45年前、三重県で起きた。地元の寄り合いでワインを飲んだ女性17人が中毒を起こし、5人が死亡した。毒物の混入を自供した奥西勝死刑囚が殺人などの疑いで逮捕された。

 奥西死刑囚は起訴前から否認に転じ、1審では無罪となる。しかし、2審で死刑を宣告され、最高裁で確定した。

 7度目の再審請求に対し、名古屋高裁刑事1部は昨年、奥西死刑囚が「犯人とは推認できない」として再審開始を決めた。だが、名古屋高裁刑事2部は今回、「犯人であることは明らか」とし、1部の決定を取り消した。

 二つの裁判部の判断を分けたのは、事件直後に行われた毒物の成分検査の結果をどう見るかという問題だった。

 この検査では、事件前に奥西死刑囚が買った毒物からは、ある化学成分が検出されたが、犯行に使われた毒物からは検出されなかった。だから、奥西死刑囚の毒物が犯行に使われていなかった疑いがあるとしたのが、刑事1部だ。

 それに対し、刑事2部は、両検査の毒物の希釈濃度が違ったため、本来なら出るはずの成分が検出されなかった可能性があると判断した。検査結果への評価の違いで結論が180度変わった。

 1審と2審で判断が分かれたのも、ワインの栓の鑑定に対する評価の食い違いが一つの要因だった。

 犯罪の捜査や立証では、「自白偏重」の批判を避けるため、科学的な証拠である鑑定の重要性が高まっている。だが、裁判官でさえも難しい鑑定の評価を、一般市民が的確に行えるだろうか。

 今回の裁判は、さらに、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則をどう当てはめたらいいのか、という問題も提起した。「奥西死刑囚の有罪を否定する判断が2度も出たのだから、十分疑わしい」とする見方もある。

 現在、裁判の現場でも、この鉄則をどう適用するかについて統一的な基準は示されていない。だが、その運用によって被告は死刑にも無罪にもなる。こうした問題に適切な対応が取られなければ、円滑な裁判員裁判は望めないだろう。

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20061227ig91.htm